2016年7月、鏡開きの式典での大船渡市長(中央)とジャクリーン・アバントさん(右端)

 「悲劇に終わったジャッキーのおとぎ話の人生は、私たちの心に終わりのない雨を降らしている」。ロサンゼルス郡美術館(LACMA)のキュレーターであるシャロン・タケダさんとホリス・ゴッダルさんが発したメッセージは、ジャクリーン・アバントさんを知っていた多くの人が、12月1日に彼女を襲った悲劇的な死の後にずっと感じていることを表している。
 81歳のアバントさんは、若い頃にラフカディオ・ハーンと「源氏物語」を読んだことに始まって、生涯、日本を愛して止まなかった。日本の漆器の情熱的な収集家でもあった。だが、これらは、この10月にロックの殿堂入りを果たした伝説の音楽エグゼクティブである夫クラレンス・アバントさんとの、素晴らしい人生のほんの一面だった。
 アバントさんは12月1日、ビバリーヒルズのトロウスデール・エステート内の自宅に侵入した強盗により、射殺された。ロサンゼルス郡地方検事局によると容疑者アーリエル・マイノール(29)は空港支部裁判所で殺人罪他の罪で起訴されることになっている。

 アバントさんは1940年3月6日にニューヨーク市クイーンズ区のジャマイカで生まれ、「エボニー・ファッション・フェア」のモデルだった。 ネットフリックスのドキュメンタリー「ブラック・ゴッドファーザー」には、エンターテインメント界と政界の両面で夫のクラレンス・アバントさんが目覚ましい上昇を遂げた基盤として、夫婦の関係を描いている。夫婦の娘ニコールは、オバマ政権時代にバハマ大使を務め、ネットフリックスの共同最高経営責任者であるテッド・サランドスさんと結婚している。
 「アバント夫妻は非常に謙虚な背景の出で、成功しても彼らはそれを決して忘れなかった。彼らは人と個人的なレベルで向き合い、すべての人を平等に扱った」。そう話すのは、ハンティントン図書館植物園の文化キュレーター兼プログラム・ディレクターであるロバート・ホリさんだ。「彼らはたとえヒラリー・クリントンから電話を受けたとしても、『あら、ヒラリー! お元気?』と言うでしょう。彼らは物事を基本的なレベルにまで下げることができたでしょう」

2016年3月、横井洋子氏(左)、ホリー・プラーター氏(右)と並んで写真に納まるジャクリーン・アバントさん

 LACMAの共同声明の中でタケダさんとゴッダルさんは「アバントさんは友人であり、腹心であり、母のような存在であり、日本の芸術と教育における美術館の取り組みを支援した人物」と述べた。2013年、ゴッダルさんはダラスのクロウ・コレクション・アジア美術館での展示に、アバントさんの漆器コレクションから40点を出品した。
  アバントさんはLACMAが最前線の漆アーティスト山村慎哉の香料入れや、漆で着色した長谷川雄一の現代版画を取得するのに力を貸し、夫のクラレンスさんと共に、 柿右衛門の磁器3点、古谷紅麟の近代主義図案集、天龍道人のタカの墨絵を取得する際にも支援したという。
 一方、日米婦人会の積極的な会員で、16年から18年までは共同会長も務めた。亡くなる2週間前の11月17日には、総領事館で開催された婦人会の90周年を記念する昼食会に出席し、他の会員と時間を過ごしたばかりだった。武藤顕総領事夫人で日米婦人会名誉会長の武藤三佐子さんは次のように述べている。「夫と私はアバント夫人の死を知り、ご家族に心からお悔やみを申し上げます。ジャクリーンさんは、日米夫人協会の共同会長として、また日米間の女性の交流を長年にわたって支援することで、日米の絆と両国の相互理解に貢献しました。ジャクリーンさんはまた、日本の芸術を愛し、彼女のコレクションやLACMAおよびクロウ・コレクション・アジア美術館での展示を通じて、日本文化を米国に紹介しました。私たちはそれらの努力を振り返り、大いに感謝いたしております」
 アバント家は声明を通じて次のように述べている。「ジャクリーンは素晴らしい女性、妻、母親、慈善家であり、芸術界に計り知れないほどのプラスの影響を与えた、ビバリーヒルズの55年の居住者だった。 家族、友人、そして彼女が素晴らしい人生を通して手を差し伸べた全ての人々から惜しまれるだろう」
 日米婦人会でアバントさんと共に共同会長を務めたジャネット・ルブランさんは「2010年に婦人会の80周年を記念して新しいピンを作成した時も、忙しいスケジュールにもかかわらず、アバントさんは常に喜んで支援してくれた」と述べる。「ジャッキーが私の肩を軽くたたき、『私にできることある?』と訊いた。それが、貴重な友情の始まりだった。結局のところ、いつものジャッキーのやり方で、彼女は仕事を美しく効率的に行うのを助けてくれた」とルブランさん。「その時から、私たちは家族、健康、旅行などについての話を楽しく共有するようになった。女同士の普通の会話だが、いつも私を刺激し、元気づけてくれた…多くの場合、彼女の優しい声は私が一日を過ごすのに必要な励ましだった」

11月17日の日米婦人会の会議で笑顔を見せるアバントさん(右)

 日本の芸術と文化への共通の愛情は、アバントさんを緊密な友人の輪に引き寄せた。最近、ハンティントン図書館が新しいイブリッドのバラの品種「平和と調和」の名付け親としてアバントさんをたたえた機会には、ハンティントンのスポンサーの1人であるトシエ・モッシャーさんとも時間を共にした。
 前出のハンティントン図書館植物園のホリさんは、「クラレンスとジャッキーの本質は、つながり、関係を形成する能力である」と説明する。「2人の才能とスキルは、つながりを作り、創造し、関係を促進することができること。これはマッチメーキングの上で、本当に重要なスキルだ」
 その才能の例は2016年にハンティントンに寄付された、香川県丸亀市の築320年の古民家だ。横井家の横井昭氏と洋子夫人が所有する歴史的な家屋は現在、当地への移築復元が進んでおり、日本庭園の目玉になる。また、日本庭園には、かつて村の米や家族の宝物の保管に使用されていた2棟の倉の復元や、石、灯篭、橋なども予定されている。
 ホリさんは、ハンティントンがアバントさんの漆器コレクションを博物館に持ち込むことを話し合っていた時、2015年3月にアバントさんの家で行われた小さな会合で、横井家の古民家の話が出たと説明する。
 「コレクションを収納する場所が必要だとジャッキーに話したところ、横井夫人が誕生日会で『家がある』と言っていた、と。それがきっかけで、ハンティントンと横井家との関係が始まった」と話す。
 「ジャッキーのコレクションの幾つかは、鏡、化粧箱、櫛などの実用的な品々なので、古民家はそれらを展示するのに最適な場所になる。ジャッキーはこれらの物を集め、横井夫人はそれらの価値を知っていたので、2人は友人同士になった」
 アバントさんの告別式はホリデーシーズン終了後に執り行われる。家族はアバントさんの遺志に従い、既にワットにある新しいマーティン・ルーサー・キング牧師記念子どもセンンターのために、ジャクリーンの名前を冠した記念基金を設立した。
 「彼女は非常に敏感な人で、前世を信じていた 」とホリさん。 「きっと彼女は、過去の人生で自分は日本人だったことがあるに違いないと、感じていたと思う」と話している。【グエン・ムラナカ】

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