26歳の息子が初めての欧州1人旅に出ている。ロンドンを起点に2週間で8都市を回るという。「インスタに写真やビデオを上げるから」と言うから四苦八苦して、数日で消えてしまう「ストーリー」という機能にもやっと慣れた。日本のカプセルホテルがぜいたくに思える、3段ベッドが並ぶユースホステルに泊まったりしているようだ。14日からフランスに入るというので「パリ祭だね」とテキストを送った。7月14日は現地の人が「バスティーユの日」と呼ぶ仏独立革命記念日である。
 90年代初頭に足掛け2年ほどパリに住んだことがある。当時の夫のおかげで駐妻(駐在員の妻)として。それで「パリ祭といえば」で30年ぶりによみがえった思い出がある。「バル・ド・ポンピエ」。バルは英語のBallと同じの舞踏会、ポンピエは消防署。パリ祭の夜、町中の消防署が市民に解放されディスコ会場になっていたっけ。消防署の中庭が電飾で彩られ、市民が踊って狂乱の騒ぎ。日本でこんなことあるわけない!とびっくりした光景だった。
 一方、こちらはよく思い出す地味な思い出がある。当時すでにリサイクルが盛んだったパリの街角のあちこちにあった、ガラス瓶の投げ入れ専用のオブジェのようなゴミ箱のことだ。溜まる一方の飲料プラボトルの山を見るたびに、「パリのリサイクルゴミ箱は便利だったな。犬の散歩がてらにガラス瓶を投げ入れに行って、ガシャーンと中で割れる音がするのも爽快だったし」と懐かしむ。
 30年後の心にもピン留めされている昔の経験。数日で消えるインスタグラムの「ストーリー」とは対照的な「老いスタグラム」である。
 およそ10年のNYの後のパリ生活は、米国の良さも悪さも気付かせてくれる貴重な経験だった。その後、私は自分の道を歩き、日本を経て15年後に米国に戻ってきた。これは私の人生の冒険の話。
 ただ「そのうちに欧州各地を…」と思っていたのに、予期せぬ辞令で滞在が短くなってしまったことは今でも残念。イタリアもスペインも探訪できないままになった。だから「息子よ、母の代わりに冒険を楽しんでくれたまえ」と、今日もインスタをのぞく私である。(長井智子)

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