在外投票の実現を目指す運動が始まったここロサンゼルス。世界で暮らす同胞が選挙権を行使できるのは、日系社会の先輩たちが努力して勝ち取ったからこそと、肝に銘じ欠かすことなく1票を投じている。今回の参院選も小東京の投票所を訪ねた。取材を兼ねていたため、投票を済ませた人に1票に込めた思いを聞くと、母国に思いをはせ熱く語ってくれ感心した。在外選挙は無事に終わったものの、選挙戦大詰めで、あってはならないことが起こってしまった。
 「安倍晋三が奈良で演説中に撃たれた。意識はない」と、同僚の日系人記者からテキストを受け取った。慌ててニュースを確認すると、心肺停止で、ドクターヘリで病院に搬送されている様子が幾度も流れていた。極めて深刻な状況に「命だけでも」と祈っていたが、夫人が到着し安心したのだろう。しばらくして息を引き取ったという。
 日系社会もショックを受け、哀悼の意を次々に表したのは、首相時代に小東京を訪問したからに違いない。日系人が首相と並んで写した写真をうれしそうに見せてくれたことを思い出した。日本と日系社会の絆を強めてもらいありがたく思っている。
 聴衆を引き付けた数々の演説の中で、次の二つが私の心に刻まれている。憲法改正の必要性を訴え続けたが、なかなか受け入れられず「話し合うことさえ許されないのはおかしい」と叫んだことと、戦後の処理で隣国ともめていた頃に「戦争と関わりのない未来の子どもたちに謝罪を続けないといけない宿命を背負わせてはいけない」と力を込めたこと。
 家族葬だったが、葬儀が営まれたお寺の前は別れを惜しむ国民であふれ「安倍さん、ありがとう」と、涙声で絶叫する姿は痛ましかった。喪主のあいさつで夫人は「やり残したことはたくさんあったと思うが、種をいっぱいまいているので、それが芽吹くことでしょう」と語った。あまりにも大きな存在であったため、後進はまだはっきり見えないようだが、種はどのように芽吹くのか。初の女性首相誕生や、民主主義国家らしく憲法改正の白熱した議論を見てみたい。「安倍さん、ありがとう」。(永田 潤)

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