何かを習得するためには1万時間を費やせ、という成功の法則を知った。習い事のピアノに例えると、1万時間に達するには、毎日6時間のレッスンを4年半続ける計算になる。この法則の根拠になる分析調査が存在したり、逆に好き嫌い、効率、習慣化の方が重要だと異論を唱えるさまざまな意見もある。生まれつきの天才でない限り、充分な練習量が必要なことに異論はないだろう。
 自分は、高齢、けが、体力の衰えでラグビーの現役は引退したが、ある後輩2人(T君、K君)の逸話を思い出した。
 かなり昔だが、T君は公立高校ラグビー部活動当時、1年間364日練習と試合をこなした。つまり休みは年間たった1日のみ。過酷な特訓も経てきただろうが、良い指導者に恵まれて、ラグビー三昧の青春を謳歌(おうか)したという。いつどこでパス、キック、タックルが、と考える前に、すでに体が先に自然に動くようになった。努力が実を結び、3年生の時は決勝戦ロスタイム逆転トライ名勝負で全国初優勝を見事に成し遂げた。
 K君は、ずっと日本でラグビーを続け、大学を卒業して就職。お金を貯めて、「今しかない」と夢を果たすために退職した。ラグビー競技世界最高峰の本場ニュージーランドに単独で渡り、生の体験に挑んだ。地元のクラブチームに飛び入り入部し、約半年間練習に参加。世界トップを誇るメッカで、さぞかし謎めいた秘密の技術や華麗なプレーを学べると大いなる期待に胸弾んだ。
 ところが、ほぼ毎日パス、キャッチなどの基礎練習ばかり。いつかはその奥義が解き明かされる時が来るだろうと、とにかく休まず練習を続けた…が、結局そのまま最終日になってしまった。
 多少けげんな心境で日本に戻り、属するクラブチームの練習に久しぶりに参加した。すると、ワンバウンドのどんな難しいパスが飛んできても、タイミング良く難なく取れるようになった。手が磁石ででもあるかのように、ボールが吸い付いてくるのだという(*ちなみにラグビーはボールを前に落とすとノックオンという一番多い反則)。まさに魔法の手?を習得したのだ。
 今週末は16年ぶりに、地元ロサンゼルスで世界7人制ラグビー大会が開催される。観戦が楽しみだ。(長土居政史)

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