精神科医の和田秀樹氏の「80歳の壁」(幻冬舎)が48万部も売れているという。これまで高齢者6千人を診断してきたと豪語しているが、高齢者たちが実際に何を考え、思い悩んでいるのか、心の奥底まで自分で体感はできないはずだ。あくまでも第三者として高齢者を医学的に「観察」してきただけだ。
 同氏が近著で説いていることを要約すると、「80歳をすぎたら我慢するな。老化に抗うのではなく、老いを受け入れて生きる方が幸せだ。明日死んでも後悔しないためには無理や我慢はしない。日々を雁字搦め(がんじがらめ)にするよりも、したいことをして、したくないことはしないでいい」。
 この本を読んだという高齢者からは「生きていく手本になった」といった反響が殺到している。
 この本を題材に先日、日米の知人たちとズーム会議をやった。仙台在住の元高校教師のAさんは開口一番、こう言った。
 「いったい、なぜ80歳の壁なのか。団塊の世代がいよいよその壁に近づいてきたからか。80歳が肉体的にも精神的にもある種の限界線を引く科学的根拠でもあるのか。確かに75歳ごろから肉体的にガクンと衰えてくる。しかし人間は50歳、60歳でも死ぬし、90歳でも矍鑠(かくしゃく)としている人もいる」
 バージニア州在住の元外交官で日本通のBさんはこうコメントした。
 「何歳になったから自分の生きざまをこう変えろとか、こうしろと言うのには反対だ。しょせん、人間がどう生きるかは、小学校や中学の頃に決まるのではないだろうか。一生懸命努力しようとか、正直に生きようと決めたのはその頃だ。あとの人生はそれを基盤に出来上がっていく。80歳になったからこうしろとか、こうするなとか言うのは余計なお世話だ」
 今読んでいる「三屋清左衛門残日録」(藤沢周平著)にこんなくだりがある。
 「衰えて死が訪れる、その時、己をそれまで生かしたすべてのものに感謝をささげて、終わればいい。しかし、いよいよ死ぬる、その時までは、人間は与えられた命を愛(いと)おしみ、力を尽くして生き抜かねばならない」
 日々是好日で、毎日を型にはめずに気軽に生きる。気軽でいい。重いと沈んでしまう。(高濱 賛)

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