パサデナに住んで10年以上になるが、身近にさまざまな野生動物が共生していることに驚く。早朝にはキツツキが木の幹をつつく音がこだまして、深夜になるとフクロウの鳴き声が冷たい空気に響き渡る。可愛いリスには心が和むけど、夕暮れ時に群れをなして狩りをするコヨーテには要注意だ。
 それだけ自然が残っているということだろう。わが家でも、縁の下にどうしても入りたくて仕方がないスカンクや塀の上を渡り家路につくラクーンの親子は常連で、初夏にはオポッサムの赤ちゃんがトマト畑のフェンスに絡まり救出に難儀した。
 パサデナの空でよく見かける緑色の羽が鮮やかなオウムの群れは、火事になったペットショップから逃げ出したのが始まりで野生化したという。住宅地をわが物顔で歩くクジャクは繁殖期には30羽近く集い、その光景には圧倒される。ただ、クジャクが車の上に乗るために傷が付くことや、ふん害への苦情も耳にする。
 このほどロサンゼルスで注目を集めた野生動物が、グリフィスパーク周辺に生息していたマウンテンライオン(ピューマ)の「P―22」だ。名前の由来は、国立公園局によりタグ付けされた22頭目のピューマからきている。先月から住宅地でペットの犬を次々と襲い、負傷する飼い主も出たことからついに捕獲された。検査の結果、体重減少や多臓器疾患、交通事故による障害などが判明したために、今月17日に安楽死処分されてしまった。推定12歳とマウンテンライオンにしては高齢で、自然界へ放しても生きていけないと専門家は苦渋の決断を下した。
 「P―22」はロサンゼルスのアイコンとなり、多くの人々に愛された。人間も自然界の一部であることに気付かせてくれた、と彼に感謝する人も多く、大都会に生きる孤独を重ね合わせる人もいた。
 現在、アゴラヒルズのフリーウエー101号線では野生動物専用の横断道路の建設が進められている。野生動物と車の衝突事故を減らしサンタモニカ山脈の生態系を守ることが目的で、2025年の完成を目指す。この横断道路建設の立役者が、10年前にフリーウエーを奇跡的に渡りグリフィスパークへやってきた「P―22」だった。行動を調査するためGPS首輪を付けられた姿はふびんだったが、これにより得られたデータが今後、人と野生動物の共生に向けて最大限に生かされることを願いたい。(平野真紀)

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