昨年も天災は世界中に大きな被害をもたらし、地球環境の変化による災害のニュースがやむことがありません。そして天災ではありませんが、終わる気配のない戦争も人間が引き起こす天変地異と言えるかもしれません。戦争とは結局は、土地の奪い合いのために、生活の基盤を破壊し、そして人間の命を奪っていくものです。いったん戦争が起きれば、強い者や声の大きい者の論理がまかり通り、弱い者から犠牲になります。悲劇ですが、戦争は終わりません。
厄介なのは、戦争する者はどちら側も自分たちの主張が一番正しいと心から思っていることです。それは、一方の側にとっては正義かもしれませんが、地球の住民として選択できる唯一の方法なのかを、今一度考えるべきではないでしょうか。古代ローマでは、戦争をさせないための施策により、パクス・ロマーナと呼ばれた約200年の平和が保たれました。日本では江戸時代の戦争がなかった約270年の期間が、後にパクス・トクガワーナと呼ばれる平和な時期でした。争いを起こす種を摘み取るために、さまざまな交渉や政策の工夫があり、その結果不平不満の少ない社会を生み出しました。つまり、平和を続ける努力があったのです。
1855年の安政大地震では、地中にすむ鯰(なまず)が暴れまわるのが起因とされ、その鯰絵と共に、鯰を鎮めるために「要石」を置いたという古代神話が広く知れわたりました。そして、新海誠監督の新作映画「すずめの戸締まり」では、地震を起こすミミズを鎮めるために「要石」が重要な役割を果たします。
同様に、今年は災害も対立もない社会でありますように、私たちは「要石」を自分たちの心の中に置くべきなのだと思います。神話は寓話(ぐうわ)かもしれませんが、先祖から脈々と伝えられてきた平和への知恵でもあります。先人の知恵が幾重にも重なって、今の便利で平和な世の中があることに感謝したいと思います。新しい年を迎えるにあたり、そんなことを考えていました。2023年が皆さまやそのご家族にとって、平和な年となることを願っています。(朝倉巨瑞)