前作で命を落としたグレース(シガニー・ウィーバー)のアバターから生まれたキリは、不思議な能力の持ち主    © 2022 20th Century Studios

 ジェームズ・キャメロン監督は3D映画のマジシャンだ。彼ほど3Dを熟知し、3Dが持つ効果がどうすれば存分に発揮されるかを理解している映画監督はいないだろう。映画の冒頭からそれを見せつけられる。森の中のシーンは3Dならではの息をのむ映像なので、ぜひ3Dで見て体験してほしい。
 「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」は、前作から約10年後という設定。ストーリー自体は前作同様、ありがちなパターンではあるものの(だから3Dで鑑賞するのを勧める)、キャメロンの手腕でその世界観に引き込まれる。特に、舞台となる惑星パンドラの人々の文化・習慣の描写が前作以上に分かりやすく描かれており、観客が理解をより深めることができるようになっている。彼らの生き方が理解できればできるほど、パンドラ側の登場人物への共感度が増し、感動を呼ぶ。キャメロンの才能を改めて実感した。

タイトルが示すように今回は海が舞台。美しい海と共に生活する海の民の生き方を見ることができる © 2022 20th Century Studios

 パンドラの住人は、自然や命は母なる星パンドラの恩恵と考え、自然や命を敬い、共存の哲学を持っている。映画を見ていて、彼らの生き方は日本人がいにしえから踏襲してきた神道と重なった。パンドラの住人のそれは「宗教」とは呼ばれず、「文化」「習慣」「生き方」と表現される。
 劇中、自然や他者に対する敬意と感謝の気持ちが描かれる場面と、自分たちの利益のみを優先し、敬意や感謝をまるっきり無視した地球人の場面が繰り返し出てくる。それは、かつての西洋諸国の侵略と鯨油捕鯨の様子と重なり、人間優先の現代社会へのメタファーでもある。
 本作の舞台となる海は、筆者が子どもの頃に海水浴に行っていた島根の海と似ている。ゴミ一つなく、海中を泳ぐ魚を数えることができた。数年前に訪れた時には、ゴミが数え切れないほど浮かんでいた…。
 今現在、われわれは地球以外に住める場所を見つけていない。もし見つけたとしても、「侵略」ではなく「共存」というやり方で移住ができるほど人類は成長しているだろうか? 本作のストーリーは、前作で主人公だった若者カップルの子どもたちが主にフォーカスされ、彼らの成長物語になっている。映画は、主軸のキャラクターの世代がメインの客層となる。本作の客層は、利便を優先して地球に絶大なダメージを与えてきたわれわれの世代のツケを払わされ、気候変動に苦しむ地球を何とか救わなければならない世代だ。地球の未来を託す世代に向け、キャメロンは映画を通じて警鐘を鳴らし、サステナブルな生き方を強烈に訴える。
 Avatar: The Way of Water(アバター ウェイ・オブ・ウォーター) 元海兵隊員のジェイクは、惑星パンドラの住民ナヴィとして、妻ネイティリと結ばれ、家族7人で平和に暮らしていた。しかし、再び人類がパンドラに侵略を開始し、ジェイクたちは海の部族の元に身を寄せるのだが…。(はせがわいずみ)

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