米国が独立戦争に勝利し「われわれの意志を反映できる新しい国を作ろう」と決意した時、世界のどこにもそんな民主主義のお手本になる国はなかった。建国の父たちがいろいろと情報を集める中、ベンジャミン・フランクリンらが注目したのがアメリカ・インディアンのイロクォイ同盟だった。
この同盟は5部族を中心とする同盟で、評議会を結成して同盟の会議を行う。出席する評議員には戦士は加われず、同盟の諸問題も対外問題も、武力を用いずに常に相手との妥協点を見出すことに努力した。評議員の発言中は全員が黙って聴き、話し終わると5分か10分の静寂を保つ。発言者が言い足りないことはないか、または発言内容を訂正すことはないかと静寂を保つのである。ヤジや怒鳴り合いは許されない。もしも評議員が不適任だと判断されたら、罷免し、新しい評議員を選ぶのはその部族の女性たちである。この仕組みを取り入れたのが米国憲法であり、対立よりも融和の精神が盛り込まれた。西へ西へと開拓が進み、合衆国加入を希望する地域はまず準州として扱い、人口が増えて経済が発展すれば対等な州として組み入れ、当初の13州が増えて現在のアメリカ合衆国が出来上がった。
戦争は悲惨である。国民がいや応もなく兵士として駆り出され家族はバラバラ。ロシアのウクライナ侵攻では、突然住みなれた住宅に砲弾やミサイルが打ち込まれ、関係のなかった人間同士が殺しあう。国際社会は分断され、エネルギー価格・輸送コストの暴騰となって人々の生活を圧迫する。周辺の国々も自国の防衛体制を強化すべく狂奔する。戦況はどちらかが一方的な勝利を収めるとは考えられない。
停戦が当事国だけでは難しいなら、国際社会は今こそ一丸となってイロクォイ同盟の精神で、なんとか妥協点を見出し停戦に向けた努力をしなければならない。米国でも中間選挙を目前に、人種差別や貧富の差が社会を分断する現在、私たちはこのイロクォイ同盟の精神を真剣に考えるべきではないだろうか。今こそ人間の知恵が問われている。(若尾龍彦)