【川口加代子】 車も人間も、ガスタンクが空っぽになるまで、走り続けるものではない。給油も整備も、余裕をもってやっておかないと故障は起こるし事故の原因にもなる。という訳で、最近救急病院のお世話になってしまった。そこで私の担当になったER勤務の看護師のお話。
 これまでにも何度か病院のお世話になったことはあるが、幸運なことに、これまではいつもてきぱきと仕事とをしながらも患者や家族への気遣いのあるプロ意識の高い看護師に恵まれてきた。
 ところが、薄寒い部屋でしばらく待たされ(こんな時の時間はやたら長く感じる)やっと入ってきた若い看護師は、名乗りもせず、私の名前と誕生日を確認し、血圧と体温を測り一度退場。再び戻ってきたかと思うと心電図検査のためのワイヤーを実に乱暴に貼りつけ、再び部屋を出て行ったが、今度は私の左腕をゴムでキリキリ縛り上げ、採血をはじめたがとにかく荒っぽく、その間一言もしゃべらない。別にレストランへ行ったわけではないから愛想よくしろとは言わないが、なんともふてくされた態度。
 しかしその後がもっと悪かった。しばらく私の心電図のモニターに見入っていたが、突然「なに?」「一体どうなってるの、コレ」と言い残してまた部屋を出て行った。患者になんの説明もせず、不安だけを私に放り投げて失礼千万、最低のベッドサイド・マナーに翻弄(ホンロウ)された1時間余り。今朝の寝起きが悪かったのか、ボーイフレンドとけんかをしたのか、どちらにしても患者の私には何の関係もないのだが、大きな籠の中のたった1個の腐ったリンゴというところ。
 しかし病室で夜の12時間を世話してくれたS子さんは、この病院で初めて出会った日本人の看護師さんで北海道出身だという。「仕事を始めて2年足らずですが、私も日本人の患者さんは初めてです」と温かい笑顔を返してくれた。
 勤務明けの朝、引き継ぎの看護師さんを紹介してくれながら、「熱いですから気を付けて」とほうじ茶のコップを手渡してくれ、即席のみそ汁のパックをサイドテーブルの上に置いて行ってくれた。
 S子さんとの出会ったおかげで腐ったリンゴの思い出は帳消しになった。(川口加代子)

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