20代の頃にはじめて訪れたマイアミは、陽気を絵に描いたような街でした。日差しが照り続ける中をさんざん歩き続けて、やっとたどり着いた海岸沿いのホテルの部屋で、本場のグレープフルーツのおいしさに感動して、いくつも食べました。
マイアミからはレンタカーで米国の最南端、キーウェストに向かいました。当時は宿泊予約することもせずに、行き当たりばったりのホテルに泊まれば良いという気楽な考えでした。ところが空いているホテルはなく、かといって高級ホテルに泊まるほどの器量もなく、仕方なくマイアミに車で戻ろうということになりました。すでに暗くなっており、行きに見ていた島をつなぐ橋と海が美しく続く光景も見えず、退屈な一本道に、ついついスピードを出してしまって、ポリスカーに止められました。罰金のチケットを切られて、車を運転する気力もなくなり、側道に車を停めて、朝日が顔を照らすまで眠りました。それが、セブンマイル・ブリッジでの若き頃の思い出です。
数十年ぶりに訪れたマイアミも変わらず陽気でした。スペイン語にあふれたリトルハバナを散歩していると、笑顔の人々に混じって放し飼いの鶏も歩き回ります。そしてキーウェストへ向かいました。そう、再挑戦のドライブでした。今度はホテルを予約して、違反にならないようにセブンマイル・ブリッジを走り抜けて、キーウェストに到着しました。
ヘミングウェーの家は今でも猫が主のようであり、遠くにキューバが見えるハーバーに落ちる夕日は、変わらず人々を魅了していました。庶民的なキューバ料理店では、見かけないアジアンの来訪のせいか終始無口で、黙々と作業をこなしていました。帰る前においしかった料理の素材や調理方法を聞くと、うれしそうに丁寧に答えて、「また、どうぞ」と愛想よく見送ってくれました。
人生であと何度行けるか分からない場所に身を置くと、その一歩一歩を歩く時間がいとおしくなります。若い頃に支払った罰金も、夕日の美しさや人々の笑顔が受け継がれていたのであれば、うれしい代償です。(アサクラ ユウマ)