シアトル郊外ベルビューを拠点に活躍する91歳のコンサートピアニスト、ミチ・ヒラタ・ノースさんの「最後のコンサート」が4月中旬にシアトルで催された。
コンサート会場「タウンホール」に満席の聴衆は、クリストフ・チャグナード指揮のノースウエスト・シンフォニエッタと共演するノースさんのパワフルな演奏を堪能。その後、音楽を通して日米交流に果たした功績に対し稲垣久生・在シアトル日本国総領事による総領事表彰があり、ベルビュー市長からの感謝状も読み上げられた。
「ミセス・ノース」「ミチ先生」として親しまれるミチ・ノースさんは、幼児からの音楽教育スズキメソード創始者・鈴木鎮一さんに指名されてこの30年間、ピアノ・マスターティーチャーも務めており、指導や演奏は広く米国、カナダ、日本、韓国、台湾、中国、オーストラリアなどに及んでいる。
平田美智子として1931年に東京で生まれたノースさんは4歳からピアノを始め、新交響楽団(現NHK交響楽団)との共演で9歳でプロデビュー。戦後も、近衞秀麿指揮の東宝交響楽団(現東京交響楽団)と共演した。46年にマッカーサー元帥の居宅に招かれて演奏し、以降は軍関係行事で数多く演奏。マッカーサーの勧めで47年、米国人作曲家ガーシュウィン没後10年記念公演会で「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏すると、以後同曲の演奏リクエストが続いたという。
51年に渡米しフルスカラシップを得てジュリアード音楽院で学び、コンクールで出会ったムーレ・ノースさんとジュリアード卒業後に結婚。80年代に当地に落ち着くまでは大学勤務の夫君と共にアラスカ、ワシントン、オレゴンなどの諸州に移り住み、音楽活動を続けながら5人の息子を育てた。
輝く黄色のドレスに大きな笑顔で登場したノースさんの1曲目は、かつて9歳で演奏したモーツァルトのピアノ協奏曲第27番。20分の休憩を挟んでの2曲目は、14歳で演奏したチャイコフスキーピアノ協奏曲第1番。91歳でなお息をのむような力強い演奏は、聴く者にパワーを与えた。ピアノ指導は今後も続ける。最後のコンサートと言わずに、ますますのご活躍を!(楠瀬明子)