建立から50年を迎えた慰霊塔に献花する参加者

 第2次世界大戦中に日系人を強制収容した施設の一つであるマンザナー戦時転住所の跡地で4月29日、元収容者をしのぶ巡礼式典が行われ、収容者の家族をはじめ多くの参加者が慰霊塔に向かって祈りをささげた。2019年を最後にコロナ禍のため昨年まで対面での式典を中止していた。砂漠気候独特の暑さにもかかわらず再開を待ちわびた400人以上の参加者が集まり、マンザナーの歴史と心を一つにした。今年の巡礼は不在の時間を埋めるかのように、以前にも増して活気が感じられた。
 今年の巡礼は先ごろ亡くなった功労者を悼むためにも重要な意味合いがあったと言える。「巡礼」の創始者の1人でマンザナー委員会の中心的役割を長年果たし、昨年に世を去ったジム・マツオカさんを追悼した他、今年の巡礼の直前に亡くなった元収容者でマンザナー委員、コミュニティー活動家のウィルバー・サトウさんにも思いをはせた。今年は慰霊塔建立から80周年、カリフォルニア州の史跡指定から50周年の節目に当たる。

基調講演を行うとハンセン氏

 マンザナー委員会のブルース・エンブリー委員長は「マンザナーに来るといつも心が震える。この場所には力がある」と、巡礼をマンザナーで開催することの重要性を強調した。「4年間にさまざまなことがあったが、心を動かされることは多くなかった。母が私たちにここに来てほしかったのと同じ理由で、われわれもここに戻る必要があった。他のコミュニティーと共に立ち上がるためにも、ここに来る必要がある。テネシー州議会から追放された黒人議員や、モンタナ州議会から追放されたトランスジェンダー議員、そんな人たちのために。私の母だったら『それは大きな一つの闘いだから』と言うだろう」
 基調講演は、米国における反アジア人への憎悪の高まりを追跡する主要な全国組織の一つ「ストップ・AAPI・ヘイト」のエグゼクティブディレクターであるマンジューシャ・クルカーニ氏が行った。クルカーニ氏は、憎悪犯罪を防止し今日の米国が直面している政治的分断に立ち向かうための一環として、歴史に目を向けることの重要性を称賛した。
 続いてマンザナーを専門とする著名な口頭歴史家(オーラル・ヒストリアン)のアート・ハンセン氏が著書「マンザナー・モザイク」について基調講演を行った。最新作となる同書には、同氏がカリフォルニア州立大学フラトン校の歴史学教授時代に当時の学生と共に行った新しいインタビューやエッセーが収録されているという。

基調講演を行うクルカーニ氏

 コミュニティーオーガナイザーのドレイセン・ヒース氏も登壇し、活動主義を鼓舞するための巡礼の重要性について語った。ヒース氏は「ここに来ることは、力を得られ、冷静になれる体験だ」と述べ、「神聖な場所に立ち心を静めれば自分がなぜこの場所にいるのかを思い出す。この場所の神聖さを感じることは、活動への意欲に火をつけたり、再燃させたりするのに役立つ。われわれの闘いは相互に関連しており、その現実から逃れることはできない。このような素晴らしいパートナーシップを築き、ここに招待されたこと、そして今日直面している全てのことから正義を守ることができるように気遣う人々がいることを、幸運に思う」と感謝した。
 他に、イスラム系米国人と日系米国人の間で進行中の連帯について発表した米国イスラム関係評議会(CAIR)の代表者や、カリフォルニア大学サンディエゴ校の日系学生会のサラ・アンドウ会長が登壇した。オープニングパフォーマンスで聴衆を熱狂させたUCLAの響童太鼓や最新曲「Here at Manzanar」を演奏した音楽グループ「ロス・マンザネロス」も出演した。
 多くの人にとって対面式の巡礼の再開は歓迎すべきことだった。「人に会い、共にいることに勝ることはない」とヒース氏は言う。「公民権と救済のための日系」(Nikkei for Civil Rights and Redress)共同議長のキャシー・マサオカ氏は巡礼が4年間行われなかったにもかかわらず、中断を超えイベントが開催されたたことに言及した。「まるで何事もなかったかのようにまた歯車が動き出したと感じる。とてもほっとした」と気持ちを語り、「この場所からいつも多くのことを学んでいる。確かにここは私の父の家族について知った最初の場所だったし、マンザナーは過去の歴史でしかないと思う人もいるかもしれないが、実際には毎年、より重要な場所になっている」とマンザナーに来ることの重要性を強調した。(ジョナサン・バン・ハーメルン、写真=長井智子)

夕刻に開催した「マンザナー・アット・ダスク」の集会中、25組に分かれたグループセッションの一つで若者に話しかける活動家のモー・ニシダ氏(右奥、黒いTシャツ)。同イベントには六つの大学日系学生会の学生らが参加し意見を交換した=29日、ローンパイン高校

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