10月24日の市議会開催日にトーレンス市役所の前に集まったノース・トーレンス・アクション連合のメンバーたち

 トーレンス市議会は9月26日の会議で、住民の反対を押し切り5対1で携帯電話塔の建設を承認した。市議会で唯一反対票を投じたのは、問題の電話塔が自身の選挙区内にある日系のジョン・カジ市議だった。市議会の決定を不服として、近隣住民が組織する電話塔建設反対派の「ノース・トーレンス・アクション(ACTION—Against Cell Towers in Our Neighborhood)連合」は市議会開催日の10月24日、市役所前の通りで抗議デモを行い注目を集めた。
 通信大手のクラウンキャッスル社は、レドンドビーチ通り2124番地に「モノパイン」と呼ばれる樹木を模した形の携帯電話塔建設を計画している。新しい電話塔は子どもを対象にした武術教室や歯科医院を含む屋外モールの前に立つことになるという。現在、モール裏手の住宅街に近い場所には火災で焼失した以前の塔に代わってトレーラー仮設塔がある。住民たちは電話塔からの電磁波は人間だけでなくミツバチや鳥などの環境にも有害であると主張している。

スペイン語で書かれた抗議プラカードを掲げるアルビン・タカモリさん

通信会社が移転案拒否
承認の市は訴訟恐れたか

 審議会でクラウンキャッスルの代表は、緊急通報911を含む強力なワイヤレス接続を維持するために電話塔が必要であると主張し、住民の健康上の懸念を払拭する専門家の証言を提出した。そして通りの向かい側にある大型小売店「ターゲット」の駐車場に移転するという提案を、ガーデナ市の承認が必要になるとして拒否した。採決は議会が閉会した後に行われた。非公開会議の内容は公表されていないが、ノース・トーレンス・アクション連合は市議会がクラウンキャッスルから訴えられるのを恐れていたと主張している。
 10月24日に市役所付近で行われた抗議デモには、ヨシコ・モロホシさん(92)を含む同連合のメンバーの姿があり、トーレンス通りを行き交う車もクラクションを鳴らして支持を表明した。この日の市議会は電話塔建設が議題ではなかったため審議は行われず、クラウンキャッスルの代表者も出席しなかった。また、連合のメンバーはパブリックコメント(意見陳述)で1人1分間しか発言できなかった。
 電話塔建設承認に対し上訴したアルビン・タカモリさんは「もし、クラウンキャッスルがもっと実現可能な代替地を探していたり、また同社の主張が実際に正しいかどうかを調査する外部の第三者電気通信コンサルタントを雇っていたりしていたならば納得ができた」とし「ぜひ決定を再考し、より広範な調査が行われることを許可してほしい。そして今一度建設を考え直し、将来的に同じような問題が起こらないようにしてはどうか」と意見を述べた。


代替地の再考を要請
カジ市議に失望の日系住人も

 パブリックコメントで発言したモロホシさんの息子マコトさんは、「クラウンキャッスルは事実を隠しており、これは許されることではない。また非公開の会議も何が起こっているのか分からないので適性ではない。議会には再考を求めたい」と述べた。また、ウィルソン・スーフーさんは「クラウンキャッスルは承認された土地以外の代替地を検討することを拒否している。審議会ではこの電話塔が現在建設予定の敷地から千フィートほど西にあるレドンドビーチ通りとバンネス通りの角にある場所でも機能することを認めた。その場所は広く、背の高い樹木があるから電話塔も自然の樹木とうまく調和するだろう。何よりそこは住宅街からずっと離れている。私は市議会が今回の決定を再考し、クラウンキャッスルに代替地を検討することを要請したい」と話した。そして、バーサ・バルボサさんは「建設予定地の周りにはたくさんの子どもたちがいる。環境は最悪なのにクラウンキャッスルは嘘をつき、あなたたち市会議員はそれを信じた。一時は私たちと同意見かと思い本当にうれしかったのに、閉ざされたドアの向こう(非公開会議)に行ってしまった」と訴えた。

抗議デモに参加する92歳のヨシコ・モロホシさんと息子のマコトさん

 サンディ・ラゴンさんは「クラウンキャッスルが『訴える』と脅すまで、あなたたち市会議員は私たちに好意的だった。それなのに市民を守るために正しいことをしてくれるあなた方を頼りにしていたコミュニティーが突然見捨てられた。市役所を動かしているのは大金持ちと欲だけ。市議会は買収された。どうかこの嘆願を再考してほしい。私たち皆に投票に行く機会があることを思い出してほしい。私はここに50年住んでいるし、この問題を隣人や友人にも話すつもりだ」と語気を荒げた。デビー・モチドメさんは、同日議員や職員がハロウィーンの仮装で『スタートレック』の制服を着ていたことを指摘し、「『カーンの怒り』というエピソードでのカーク船長とミスター・スポックのやりとりを覚えているだろうか。多数のニーズは少数のニーズ、あるいは1人のニーズに勝る。つまり住民や子どもたちは多数であり、クラウンキャッスルは1人だ。私たちは家の近くに電波塔が建つことで健康や幸福、資産価値を危険にさらしたくない」と述べた。ジュリー・スーフーさんは「私たちは電話塔建設に反対しているわけではない。塔を建設予定地から数百フィート移動させたところで何が変わるというのか? どうか考え直してほしい」と主張した。
 カジ市議は会議後、羅府新報の取材に対し「5対1で不服申し立てが却下された。連合はすでにあらゆる手を尽くしたと思う」と述べた。
 前出のモロボシさんの娘マリーさんは、サンフランシスコ在住ながら何度か審議会に出席し状況を注視している。「現時点では私たちにほとんど打つ手はない。私たちはカジ氏に承認を再考する動議を提出するよう強く働きかけたが、彼は私たちの上訴が却下された9月26日の会議からその後2回しか市議会が開かれなかったとし、意図的に動議提出のタイミングを逃した」と話した。また「 私たちの訴えを再審議するために他の議員の協力を得るためには、カジ氏が10月24日の市議会までに行動する必要があった。もし彼が本当に私たちを支援してくれるのであれば、緊急の要請であることを考慮し即座に対応するはずだ」と述べた。カジ氏との面談は市議会議員がトーレンス市の日本姉妹都市である千葉県柏市への交流プログラム50周年記念旅行から戻った後に行われたという。アルビン・タカモリさんと共にカジ氏と面談したマリーさんは「その時彼はこの件を市議会に再提案できるかどうか自分なりに調査すると言ったが、日本に旅行中だった他の議員はこの問題に対して興味がないようだった。また再考動議の提出期限はすでに過ぎていたため、カジ氏には実際にどのような選択肢があるのかはっきりしなかった。彼には本当に失望している」と胸の内を語った。「私たちは今も建設予定地の前で抗議活動を行っている。市議会によるとこの件は終了したが、私たちは40年以上トーレンス市に住む住人として互いに親密になっている。この15カ月の間に反対派として組織化し連絡を取り合ったことで、以前にはなかったような、互いを気遣う親密なコミュニティーが生まれた。来週93歳になる私の母はこの活動のおかげで日本のキュウリやナスを少なくとも12人以上の新しい隣人に配るようになった。今、私たちは純粋に互いを思いやるようになった。そして今なお希望を捨てていない。奇跡が起こる余地は常にあるし、それを信じている」と語った。(J・Kヤマモト、写真も)

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