3カ月の介護訪日から戻ってまだ時差も抜けきらない明け方、ぼんやり目覚めたベッドの中で不意に気付いた。ひと月以上前に原稿料振り込みの連絡メールを地元シアトルの某社から受け取ったまま、確認してなかったことに。気になり始めたので飛び起き、急ぎ銀行口座をチェックすると、小切手口座にも普通預金口座にも入金の形跡がない。もしかして原稿料は別人の口座に送られてしまったのか。時差ボケなど言ってはおられない。早朝だったがすぐ経理担当者に、振り込みの無いこととひょっとして誤った口座に送金されたのではとの懸念をメールで書き送った。
 1日が始まり担当者から返信が来るまでの間は、振り込み先間違いの可能性に気が重かった。ところが、返信が届くとそれまでの気の重さはたちまち消えて、自分のボケようへの情けなさに変わった。担当者が送ってきた振込先番号に見覚えがあり、それもまた自分の口座。だいぶ前に別口座を振込先に指定したことをまるっきり忘れていての騒ぎだったのだ。人さまに迷惑をかけ、おっちょこちょいにも程があると、深く反省した。
 昔から、おっちょこちょいは自覚している。まだ仕事と子育てで毎日が目の回るほど忙しかった頃、家の鍵をなくしたことがある。どこを探しても出てこなかったが1週間後、冷蔵庫の奥で発見した。どうやら、買い込んだ1週間分の食材を冷蔵庫に入れる際に、手にしていた鍵を最初に入れてしまったらしい。この時は苦笑いで済んだのだが。
 年とともに忘れっぽくなる上に、親の介護で回遊魚のように日米間を一年中動き回っていると、物忘れがいっそうひどくなっていくようだ。時差ぼけの抜けた先日、いつものように朝食前に新聞を取りに表に出ると新聞がない。がっかりしながら未配達を新聞社に連絡した後、気付くと食卓の上にその日の新聞が置いてある。その朝はなぜか起き抜けに外に出て新聞を入れたことを全く忘れてしまっていたのだ。新聞社には慌てて訂正とわびを入れたが、振り込み騒ぎもあっただけに、今後は自分自身が信用できなくなりつつあるようで怖い。残念ながら。(楠瀬明子)

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