【長井智子】 ニューヨークで暮らし、今月30歳の誕生日を迎えたばかりの息子が、久しぶりにロサンゼルスに立ち寄った。たった1泊だけの短い再会だ。朝になり、「今日はどうしようか?」と話していると、息子が「サンクレメンテに行ってみない?」と提案してきた。
 サンクレメンテはオレンジ郡の南端に位置する海辺の町。高速道5号線を南に走るとサンディエゴ郡に入る手前で右手に太平洋が見えてくる、そこがサンクレメンテだ。私たち家族は東京から移住して最初にここで暮らし、息子は中学・高校の多感な時期を過ごした。30歳という節目を迎え、さらに近々日本で駐在生活を送ることが決まっている彼は、ふと人生を振り返ってみたくなったのかもしれない。ハンドルを握る息子が最初に向かった先は、初めて米国人の友だちを作った住宅街の公園だった。彼が何を感じているのか少しだけ察することができた。
 かつて通っていた学校や、住んでいた家の前を巡りながら、思い出話に花が咲いた。私と共有する思い出もあれば、初めて聞く彼だけの思い出もあった。昔のアルバイト先にはランチがてらあいさつに行った。「カワマタシーフード」は新鮮な刺し身が食べられるテイクアウトのポキ専門店で、息子は店主の方にとてもよくしていただいていたようで慕っている。以前と変わらずお客さんが途切れることなく訪れているのを見て、私はうれしくなった。
 海辺のアイスクリーム店や、有名なタコスの店、商店街の風景。様変わりした場所もあったが、多くのローカル店がコロナ禍を乗り越え、今も健在であることに感動した。そしてもう一つ、海は全く変わっていなかった。
 桟橋を沖に向かってのんびり歩く。海は青空の下でキラキラと輝いていた。「ここの海ってこんなに青くてきれいだったっけ?」と息子が言った。「今日は天気がいいからね。空が映っているから」と私が言った。「いい日に来たね」と2人で笑った。
 打ち寄せては引いていく波は、いつまでも終わることのない、そして見飽きることのない光景だ。沈む夕日を眺めながら、この海辺の町に特別な魔法があることを改めて感じ、この町に暮らすことができた人生の幸運に感謝した。(長井智子)

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