08年米大統領選挙の舞台裏をビビッドに描いて、発売前からいろいろと物議を醸している問題作、「Game Change」を読んだ。重厚な政治論評で知識人の間で人気のある週刊誌『ニューヨーク』の政治記者と『タイム』誌の編集者との共著だ。各陣営をくまなく廻り、大統領候補やその周辺の息遣いを「収録」している。従来ならタブロイド紙が取り上げるゴシップ話を品よくまとめている。どこの国にもタブーはある。アメリカもご多分にもれない。こと人種差別的な発言や男尊女卑的な発言を「公の場」ですれば、公職や取引先との商売を失うことだってある。ましてや、政治家たちにとっては命取りだ。
本書によれば、オバマ大統領を当初から支持してきた白人政治家、リード上院院内総務が会合の席で、「オバマは黒人訛りのない立派な英語を喋る政治家だ」と平然と言ってのけている。このリード発言は、大問題となり、リード氏はオバマ大統領に謝罪。日ごろリベラルぶっている政治家ほど本心は分かったものではない。
ビル・クリントン元大統領の黒人蔑視発言も著者たちは見逃さなかった。妻のヒラリーへの支持をエドワード・ケネディ上院議員(故人)に依頼したクリントン氏は、「オバマなぞはついこの間まで私たちにお茶をサービスする若造にすぎなかったじゃないですか」と口を滑らしている。
この一言を聞いて、ケネディ氏はクリントン夫妻に対する評価を下げ、オバマ支持を決めたという。
本書には出てこないが、リベラル派の重鎮、カーター元大統領がテレビ番組でオバマを指して「That Black boy」(あの黒んぼのにいちゃん=南部プランテーションの白人の主人が黒人奴隷を指して言う表現とされる)と言うのを聞いて、オバマ氏がその後カーター氏と距離を置いているのは知る人ぞ知る話だ。「口は災いの門」。折角築き上げた名声もいっぺんで吹っ飛んでしまう。それはなにも政治家だけに限ったことではない。フーテンの寅さんではないが、「それを言っちゃあおしまいよ」ということが世の中には多々ある。【高濱 賛】