国際交流基金は「戦後」を、復興の象徴とされる東京五輪開催の64年までと区切っている。そのため、展示には同年開通した新幹線や、同時期に普及したテレビ、洗濯機、冷蔵庫の「三種の神器」は登場することはない。この戦後20年は、日本がその後の高度経済成長を経て世界へ飛躍する礎を築いた大切な期間であり、同基金は展示について、社会の激変をとらえた記録として意義深くまた、質の高い芸術性においても重要な記録として位置づけ、鑑賞を呼びかけている。
原所長は「日本人にとって1つの戦後の終わりが東京オリンピックでありまた、新しい日本の始まりでもある。1964年は、戦後の象徴的な年だったと思う」と強調。「そこまでの(戦後20年)間に何が起きたかは、アメリカではあまり伝えられていない。日本人でさえも知らない人も増えてきている」と指摘し「(作品を通じて)人々の暮らしを知ることができる」とし、写真展開催の意義を説く。「戦後間もない日本人は、辛い顔をして、苦しみながら生きていたというイメージを抱きがち」とするが「(展示では)笑顔を見せ、表情が豊かで、生活を楽しんでいる姿が見える。そういうことを知ってもらって、日本人と人間のたくましさを見てもらいたい」と願う。11人の写真家の芸術性の高さについては「個性が豊かで、個展を開けば長蛇の列ができるようなすごい人ばかり。それぞれのスタイルの違いも見ることができる、ぜいたくな写真展である」と胸を張る。
玉音放送を聴いてすぐさま写した太陽や、原爆ドーム、焼け野原で乳飲み子を背負う母親、祖国の土を踏んだものの跡形もない、かつての住まいを探す復員兵、戦場に駆り出され命を落とした息子の遺影を掲げ、お遍路へ旅立つ老夫婦など、「戦争の余波」は50年代半ばまで続いたようだ。
野外・街頭では、紙芝居に群れる坊ちゃん刈りの少年とおかっぱの少女、喫煙する戦争孤児、闇市や職安の行列、荷物を背負った行商人、皇居に向け深々とお辞儀する老夫婦、田植え、稲刈り、花見、祭り、休憩するSKDのダンサー、歌声喫茶などなど。「伝統と近代」が混在する中、豊かさや生活に余裕はまだないが、助け合って素朴に生きる人々の様子が巧みに写し取られている。
「戦後」終盤の60年代に入ると、若者の服装はTシャツにジーンズ、サングラス、スーツ、ドレス、ハイヒールなどと、洋服が目立ち「新生日本」へと向かう。自由な思想を持ち、日米の政策に反発する国民による砂川事件、安保闘争なども紹介されている。
現代美術(インスタレーション)のアーティストのカルメン・アルゴテさんは、すべての写真を鑑賞し「当時の日本の人々の生活様式がよく分かるとても印象的な作品ばかりだった。戦争の余波の中で、服装や文化など西洋の影響を受けながらも伝統を重んじて、日本というアイデンティティーを取り戻しつつあるように見える」と感想を述べた。「被写体である個々が自己を主張している感じがして、戦後の復興に再びフォーカスを合わせた意義のある写真展と思う」と語った。
出展する写真家11人は次の通り。
長野重一、土門拳、田沼武能、奈良原一高、川田喜久治、木村伊兵衛、石元泰博、細江英公、濱谷浩、林忠彦、東松照明
ギャラリーの開館は、火曜から土曜までの正午から午後6時まで。日、月曜と7月4日の独立記念日が休館。入場無料。
問い合わせは、電話323・761・7510。ウエブサイト―
www.jflalc.org