羅府新報に入社して1カ月。霜月になった。新たな環境で新しいことを習う毎日。不惑をとうに過ぎてからの新生活は戸惑うことも多いだろうと予想していた。ペースを保ちながらも一生懸命やろうとか、多少の空回りは覚悟しておこうとか、頭の中では準備した。
 だが初日、緊張はマックスに。そんな時、新たに同僚となった中に御年91になる女性がいると知った。いやもうびっくり。入社したのが70代の時らしい。いやもう、二度びっくり。「羅府新報、なんて素敵」と感激した。このとき、新たな環境に身を置く緊張から一気に解き放たれたのだ。
 一般的に、新しいことを始めて生活が一変すると、不安や緊張、ストレスをもたらすものだ。われわれ働く世代にとっては、入学、就職、結婚、出産、退職などが転機といえる。
 高齢者の場合はどうだろう。この世代にとっては、運転免許証の返納による移動手段の変化がある。州の運転免許証保持者2600万人のうちの何パーセントかに、毎年その変化が訪れる。
 友人のPさんは今年の春に80歳になった。そして免許更新の時がやってきて、ある日突然運転資格を失った。昨日まで運転して買い物や映画に出かけていたのに。彼女の生活は急変した。Pさんの意気消沈ぶりは、電話越しにも気の毒に聞こえた。携帯電話もコンピューターもないという人は、今ではこの世代でも珍しいのかもしれない。周囲から携帯を持つように勧められ、画面が大きいという理由でタブレットを購入。ウーバーに頼る生活になるだろうと助言され、ウーバーを呼ぶ「訓練」を開始。文字通り、彼女の生活は一変した。変化に対応するエネルギーも、齢80を過ぎてからでは枯渇気味だ。
 ところが数カ月して、電話越しに聞いたPさんの声は元気そのものだった。すっかり吹っ切れたようすである。市の運営する高齢者用のマイクロバスを見つけたらしい。車に乗らない生活にも慣れたようだ。タブレットは充電器に刺さりっぱなしだとか。「メトロにも乗ってみようと思う」と、新たなチャレンジを口にする。
 新しいことを始めるのに年齢は関係ないなと、あらためて思った霜月の初めだった。【麻生美重】

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