今年の大相撲初場所は、千秋楽の最後の大一番でなんと前頭17枚目の徳勝龍が大関貴景勝を寄り切って優勝した。大相撲史上2度目、20年ぶりの幕尻力士の優勝だった。立ち合いにぶつかり合って激しい差し手争いになり、徳勝龍は左差し右上手という理想的な形になった。激しい攻防に一歩も引かず前へ前へと圧力をかけ、すくい投げを打たれた瞬間にかぶせるような上手投げ。たまらず貴景勝は崩れた。
 控え室には13勝2敗の正代が優勝決定戦に備え入念に体をほぐし準備を整えていたが、大きくのけ反って落胆した。相手は大関の貴景勝である。場内の誰もが優勝決定戦を確信していた。勝った瞬間、徳勝龍の顔はクシャクシャになり、勝ち名乗りを受け取る間も涙が止まらない。奈良県のパブリック・ビューイング会場では大歓声が湧き父親が感激に震えた。
 徳勝龍は奈良県出身の33歳。2009年に近畿大学相撲部より木瀬部屋に入門。同年初土俵、13年に新入幕。本来押し相撲だが引いて負けることも多く、通算成績は437勝410敗というから目立たない力士だった。三賞も今回の殊勲賞と敢闘賞が初受賞である。以前、元横綱・北の湖理事長から「お前は左だよ。押し相撲だけでなく左四つも勉強しろ」と言われたのが転機になったという。場所中に近畿大学相撲部の伊東勝人監督が急逝。心に期するものがあったのだろう。
 慣れない表彰式ではいちいち助言を受けながら優勝カップや各種の褒賞を受けたが、恒例の優勝インタビューでは存分に自分流を発揮した。開口一番「自分なんかが優勝していいんでしょうか?」と場内を沸かせ、緊張しましたかの問いには「いや、もう意識することなく…」と言いかけたが「嘘です。めっちゃ意識しました」に場内は大笑い。続いて「バレバレでインタビューの練習をしました」で場内は大爆笑。「もう33歳ではなくて、まだ33歳と思って頑張ります」と締めた。
 最近、横綱・大関の休場が続き先行きが心配される相撲界にあって、久々の明るい話題である。2020年の幕開けに一陣の爽風が吹いた。【若尾龍彦】

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