ライブ・ストリーミングで話すJANMの館長兼CEOのアン・バロウズ氏
 全米日系人博物館(JANM)が仮想世界に「飛躍」した。新型コロナウイルスの世界的流行の危機の中で開催が困難となった毎年恒例のブラック・タイのフォーマルイベントの代わりに、ライブ・ストリーミングで18日、バーチャル・ガラを開催した。これは日系人の経験の物語が今後の世代に共有されなければならないという同館の決意の表れである。

 事前に録画されたセグメントと生放送のセグメントを混ぜ、スピーチ、音楽で構成されたショーはYouTubeで放映された。
 JANMの館長兼CEOであるアン・バロウズ氏は、ハートマウンテン収容所のディスプレイの前に立ち、「今はこれまで以上にお互いを支え合い、お互いの精神を高める必要がある。今夜はJANMの本質に迫るプログラムを見てほしい」と視聴者に語り掛けた。
 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中でも、日系人の非営利組織はその大小を問わず重要な活動資金を調達する募金活動やイベントを続けている。子供たちが同館の見学に訪れる費用を集めるオークションは、オンライン上に陳列されて入札が行われた。イベントの共同議長のカーリ・ナカマとスーザン・モリタの両氏は、イベントをまとめた同館のスタッフに感謝の意を述べた。モリタ氏は「テクノロジーとJANMスタッフの素晴らしさに感謝し、オンラインオークションに興奮している」と語った。

アイリーン・ヒラノ・イノウエ氏がアコーディオンを演奏し、拍手喝采を浴びる珍しい映像が流され、故人の功績をしのんだ
 次に、先日急逝したばかりの元館長、アイリーン・ヒラノ・イノウエ氏の功績をしのんだ。誰もが同館建設時に果たした同氏の重要な役割を思い出し、故人への思いをはせた。特技のアコーディオン演奏を舞台で披露して拍手喝采を浴びる珍しい映像も紹介された。地元テレビ局KTLAのニュースアンカーで、夕食会の司会を務める予定だったフランク・バックリー氏は次のように語った。「同館を小東京とダウンタウンの中心施設に育て上げたのは、アイリーンの賢さと勤勉さ、穏やかで粘り強いリーダーシップによるものだった」
 ショーのムードを明るく変えたのは、理事会の名誉会長でもある俳優のジョージ・タケイ氏。蝶ネクタイ姿で登場したタケイ氏は、「長く生きて繁栄しよう」と画面に向かって乾杯のグラスを持ち上げた。
 日系人を題材にした番組、AMC放送の「The Terror」に主演するデレク・ミオ氏は、コンピューター画面で見るイベント独特の特徴を捉えて、「バーチャルでガラとは奇妙だね。これが最初で最後だとよいのだが。あ、心配しないで、僕もズボンを履いていないから」と、冗談で笑わせた。
 ミオ氏と、同じく俳優のケイコ・アゲナ氏は、日系人強制収容所で書かれたスタンリー・ハヤミとユリコ・コチヤマの文章の一節を読みあげた。その言葉は、まるで過去から現在に向かって話し掛けているかのように、響き渡った。
スタンリー・ハヤミがハートマウンテンに収容時に書いた日記(右)を
朗読する「The Terror」に主演するデレク・ミオ氏
 スタンリー・ハヤミがハートマウンテンに収容されたときに書いた日記からの引用はこうだ。「私は今日ここにいる。来年のこの日は、家か、キャンプの外のどこかにいることを願っている」。ハヤミはその後、第442部隊で戦い、イタリアで戦死した。
 コチヤマがアーカンソー州ジェロームで書いた文章は、解放後に公民権運動に尽力したコチヤマの未来を予感させる。「私たちには愛が必要だ。理解が必要だ。広い心が必要だ。私たちは寛容でありながら、正義をしっかりと理解する必要がある。不屈の精神でより良い生活を求めながら単調な毎日を生きるには忍耐が必要だ」。
 その後、MUFGユニオンバンク理事長のカズオ・コシ氏、リンダ・アラタニ氏、サカエ・アラタニ氏、ユウキファミリー、ジョージ・スギモト氏、それに現在同館で展示開催中のタイジ・テラサキ氏など、主要な後援者が登場した。ガラの基調演説はスミソニアン協会セクレタリーのロニー・バンチ3世が行った。
 スミソニアン国立アフリカ系米国人歴史文化博物館の館長でもあったバンチ氏は、事前に録音されたスピーチの中で、歴史的な西館がオープンして初めて館内を歩いたときの喜びを思い出しながら、JANMとの長い付き合いに言及した。「危機的な状況の時に、全米日系人博物館やアフリカ系米国人歴史文化博物館などの博物館の存在は普段以上に重要になる。博物館は国を一つにまとめる接着剤の役割をする」と強調した。
 ガラの最後に自家用車レクサスRX450が当たる抽選があり、北米トヨタCFOのトレイシー・ドイ氏のあいさつの後、当選者が発表された。幸運を手にしたのは1994年からJANMのボランティアとして長く活動するナーン・グルックさんだった。
 最後にJANMのスタッフがそれぞれの自宅から、衣装を身に付けたり、キーボード、ウクレレ、ギターなどの楽器を演奏しながら、一斉に「All by Myself」を合唱するというコーディネーション・パフォーマンスが人々を驚かせた。
 約1時間のJANMバーチャル・ガラの様子はYouTubeで視聴できる。
 www.youtube.com/watch?v=Ze4ZAZdrX9c

危機が与えた新たな可能性
成功したバーチャル・ガラ
鍵は後援者とスタッフ、オンライン

 全米日系人博物館の開発担当副社長サンドラ・チェン・ラウ氏はバーチャル・ガラの成功の鍵に「強固な後援者の基盤、クリエイティブなスタッフ、オンラインの持つ能力」を挙げた。「博物館にとって、使命の実行と持続は非常に重要。今年も、コミュニティーからの支援がいつものように集まることは分かっていた」と言うラウ氏は、前例のない状況下で開催されたガラを振り返って、「危機が機会を与えた」と述べた。
 「私が資金調達の世界で信じていることだが、非営利団体はときに二つの間違いをしがちだ。それは、今は人々が寄付をしたくないだろうと思い込むこと。そして、今は資金調達活動をする時期ではないと思い込むことだ。今、こんな時でも、人々は助けになりたいと思ってくれている。募金を頼むことは私たちの義務であり、彼らが『しない』と言った場合は、私たちは理解すればよい。頼まないまま資金を得られなかったら、それは私たちの責任だ」
 JANMがサイレントオークションをオンラインに移行することを決定したのは昨年だった。そのため、家から入札することができ、関心も高く、市場価値に近いか、それ以上の値をつけた品も多かった。
 教育資金のための入札と寄付の呼び掛けを続けたこの日、入札は13万4千ドルを集め、ほかに多くの寄付が郵送で届くことが期待できる状態になった。今年のガラの予定会場だったインターコンチネンタルホテル・ロサンゼルス・ダウンタウンに支払った保証金は来年用に移行することができた。
 総収入が100万ドルを超えた昨年のJANMガラと比べて、今年のバーチャル・ガラは諸経費が低い。ラウ氏は予測には慎重ながら、純利益は昨年のディナーと同程度になることが期待できると述べた。また、「財政もさることながら、関係の維持と強化がこの危機の最中で最も重要である」と述べた。「私たちが築き上げてきた長年の関係こそが、今回私たちを支えた」
 ラウ氏は新型コロナの世界的流行の間に資金調達の課題に直面している団体や組織があれば、喜んで話をすると言っている。相談はEメールでschenlau@janm.orgまで。
 「JANMのチームは非常に独創的で、やり遂げる自信に溢れていた」と結んだ。
【村中グウェン、訳=長井智子】

それぞれ自宅からの合奏でフィナーレに「All By Myself」を披露したJANMのスタッフ

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