権力者が恐れるジャーナリストは、告発サイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジが生まれる前にもいた。ジャック・アンダーソン(2005年12月17日逝去、享年84)だ。権力者の欺瞞(ぎまん)を暴くためには違法すれすれ、いや時には法律を破ってまで報道した。
 そのアンダーソンの生涯をかって助手だったメリーランド大学教授・フェルドスタイン氏が描いた『Poisoning The Press』がタイムリーだ。
 アンダーソンは、長年「ワシントン・ポスト」はじめ全米1000紙に掲載されたコラムで、米政府内部の極秘情報や醜聞をスクープした。72年1月には、印パ戦争の際に米政府がパキスタンとの間に交わしていた密約を特報して、ピュリツァー賞を受賞している。同じ月、沖縄返還交渉の佐藤・ニクソン会談の当日、駐日米大使が本省に送った極秘公電も暴露した。
 歴代大統領の中でアンダーソンを一番嫌ったのはニクソン大統領だった。発端は、60年の米大統領選の投票前日、ニクソンの実弟が億万長者から不正なカネをもらっていたことをすっぱ抜かれた。それだけが原因ではなかったが、ニクソンはケネディに敗れた。これを根にもったニクソンは、のちに大統領になるや、十数人のCIA工作員にアンダーソンを尾行させた。ニクソンの側近は、ウォーターゲイト事件の実行犯だった男にアスピリンの瓶に毒物を混入して殺すよう命じた。
 「アンダーソンは権力者たちに対する強い不信感と反抗心を抱いていた。既成のメディアが突き崩せない壁を打ち破ろうとしていた」(フェルドスタイン教授)
 アンダーソンとアサンジには共通項がある。権力者への不信感だ。アサンジを「情報テロリスト」と非難する一方で、「英雄」だと誉めそやすものもいる。
 インターネット時代における国家機密保持のあり方、「国民の知る権利」との兼ね合い。アサンジをめぐる論争は当分続きそうだ。【高濱 賛】

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