米国江崎グリコ社長
中井俊介さん

 主力商品のポッキーをはじめ、菓子、アイスクリームなどさまざまな商品を展開している米国江崎グリコ社。同社に2014年3月末に赴任した中井俊介代表取締役社長に、米国での挑戦を聞いた。【取材=吉田純子】

 江崎グリコ社の米国展開は2003年から始まった。主力商品は「ポッキー」。スティック状のプレッツェルにチョコレートをコーティングした、言わずと知れた同社の定番商品だ。
 当初は無の状態からのスタート。日系やアジア系マーケットを中心に販売していた。今ではコスコ(コストコ)やラルフスなど米系マーケットでも取り扱われるようになった。
 昨年ポッキーは2500万箱売れた。13年の1800万箱、12年の1300万箱と比べると着実に売り上げを伸ばしている。商品数が増えたこと、取扱い店が増えたことが大きく影響しているという。「ポッキーが『日本生まれのアジアを代表するお菓子』として認識して頂けてきていると思っています」と中井社長は話す。
 米国のアジア系人口の増加も売り上げに影響しているという。現在、米国のアジア系人口は全人口の4%、100人に4人がアジア系だ。20年には5・4%になると推測されており、今後、アジア系の客をどう惹き付けられるかがカギとなる。

米国菓子市場の壁
一角崩す秘策とは

主力商品ポッキーを片手に米国での挑戦を語ってくれた米国江崎グリコ社の中井俊介社長
主力商品ポッキーを片手に米国での挑戦を語ってくれた米国江崎グリコ社の中井俊介社長
 ポッキーは米系のスーパーマーケットの菓子コーナーには陳列されていない。アジアのフードコーナーに置かれている。米系のスーパーマーケットでチョコレートなどが売られているキャンディー売り場では、ハーシーチョコレートを主力商品とするハーシー社と、M&M、スニッカーズなどの主力商品を抱えるマース社の商品がほぼ全体を占めているのが分かる。「例外なくこの2社の商品しか置いていません」と中井社長。
 米国の菓子市場はチョコレートのカテゴリーシェア上位2社が6割を占めている。ビスケットも同じ。「米国はすでに淘汰が終わっている。われわれのような小さなプレイヤーはすでに退場が決まっているような状態」と中井社長は話す。流通の壁は高く、例え客が求めていても届けることが難しい。
 洗剤やキッチン用品などの消費材と食材に関してはウォルマートでもラルフスでも日本で売れているブランドを見つけることができない。例外は日本茶など、米国のメーカーでは作ることが難しい、日本の文化ごと持ち込んだ商品だけ。チョコレートやビスケット、洗剤などは例外無く日本のメーカーは入っていけないのだそうだ。
 「まったく別のことをやっていかないと一角は崩せない。消費者を抑えないとこの市場は難しい。だが消費者にニーズさえあれば、今の独占状態を崩せることができる。そう信じています」

大手プレーヤーに挑戦
「加州中の女の子にポッキーを

 行き着いたのが地道なファン作り。限られたプレーヤーに市場は抑えられている。ならば、その限られた隙間に参入していくための工夫をすればいい。
 現在、中井社長率いる当地の社員は、ポッキーをイメージした赤色のトラックに乗ってサンプリング活動を実施している。休日のモールや若者が集まりそうなエリアに出向き、ポッキーを配って味を知ってもらう。フェイスブックやツイッターとも連動し、出没するエリアは随時知らせている。

可愛らしい衣装を着た女の子たちが、赤色のトラックに乗って加州各地を回り、ポッキーを配るサンプリング活動をしている(米国江崎グリコ社提供)
可愛らしい衣装を着た女の子たちが、赤色のトラックに乗って加州各地を回り、ポッキーを配るサンプリング活動をしている(米国江崎グリコ社提供)
 カリフォルニア州にいる15歳から25歳の女性は420万人。「カリフォルニアで400万箱くらいまこうと思っています」と中井社長は意気込む。「2、3本配るだけではポッキーの味の良さは伝わらない」。サンプリングでは箱ごとあげる大判振る舞い。金と時間はかかるが、1人1箱行き渡るように、ファン作りをしていく。
 しかし、ただ撒けばいいという訳ではない。人は食べ終われば忘れてしまう。だから再会の場所を作ってあげなければならない。再会の場が演出されていないと客は忘れたままになってしまう。その再会の場所が店頭なのだ。
 「知ってもらい、食べてもらい、再会する場所を提供する」。大手プレーヤーが独占する米国市場で戦っていくためには、地道なファン作りにこそ勝算があると中井社長は分析する。
 米国は大手各社、長年同じ商品を展開している。日本は随時新しい商品を発表し変化に富んでいる。「米国の消費者はもう同じ商品に飽きていると信じてます」


「機能」と「情緒」の価値
ファン作りがブランド育成

 ブランドには「機能の価値」と「情緒の価値」がある。食べ物の「機能の価値」は「美味しい」ということ。だが「美味しい」だけではなく、「ポッキーの箱を持つと可愛く見える」、「ポッキーを持っていると人が集まってくる」、「人気者になれる」といった、美味しい以外の、情緒に響きかける価値も築いていかなければならないという。
 赤いトラックで各地を回るサンプリング活動では、ポッキーカラーの赤色の可愛い衣装に身を包み、元気で人気者のイメージにぴったりの女の子たちがポッキーを配る。いかにこうした情緒の価値を客に伝えられるか。「今年はサンフランシスコでもサンプリング活動をしていこうと思っています」。ブランド育成はこれから。米国の壁は厚い。

グリコ社の定番商品、(左から)抹茶、ストロベリー、チョコレート味のポッキーと、同じく米国で展開している「プジョイ」(写真右2つ)
グリコ社の定番商品、(左から)抹茶、ストロベリー、チョコレート味のポッキーと、同じく米国で展開している「プジョイ」(写真右2つ)

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