先日、友人の職場を訪れた時のこと。今まで嗅いだことのない臭気に出会った。
相当強い臭いだが、何の臭いなのか特定できない。
 一番近い臭いで…スカンク、そう、よく街を離れて遠出すると、突然この臭いに襲われることがある。
 家人が「また誰かの車がスカンクをヒットしてタイヤに臭いを付けたまま走っている」と言う。
 いつだったか、犬が裏庭に現れたスカンクにちょっかいをだして「鼬(イタチ)の最後っ屁」をかけられて帰ってきて、家中大騒ぎをしたことがある。この臭いを消すにはトマトジュースが一番とか、大きなトマトジュースの缶をたくさん買ってきて、庭にタライを引き出し家族で犬を洗ったことがあるが、何とも強烈な臭いで吐き気を催したものだ。
 一人の女性が横を通るたびにその臭気が強くなる。どうやら震源地は彼女らしい。しかし周りの誰もそれについて言及するわけでもなし、嫌な顔も見せない。
 外来者の私が一体何の臭気かと訊ねるのもはばかられて、ひょっとすると自分の嗅覚が異常なのだろうかと疑ってみた。そして自分なりの結論は、その種の整髪剤かコロンの類で、自分の鼻に合わないだけだと思うことにして…息をつめるようにして我慢。
 しばらくするとその女性はヘッドホンをつけてモニターを見始めたが、数分すると彼女は上向き加減にモニターから目を外し、居眠りを始めた。そして、ガバッと机に臥せって爆睡状態。
 悪臭の源を疑問に思いながら用件を済ませて外に出ると、新鮮な秋の冷気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 後日、友人に先日の異臭に気が付かなかったのかと尋ねたところ、あれはどうやら麻薬の臭いで、その時彼女は仕事のトレーニング最中だったとか。就職しようと思う職場に麻薬で朦朧(もうろう)とした状態で現れて、トレーニングの最中に爆睡する神経が分からない。
 採用の条件としてドラッグテストを受けてもらうと伝えたところ、彼女は再び帰って来なかったとか。
 人間を70余年もやって来て、麻薬の臭いは初体験であった。二十歳を幾つか過ぎたばかりの赤の他人の将来が心配になった。【川口加代子】

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