「神ってる」を紙上で見た時は一瞬、誤植かと思った。ほどなく今年の流行語大賞に選ばれ、にわかにあちこちで目に、耳にすることになる。神懸かってるを縮めた言葉らしい。最近は、思いがけない気配りをした人を「神対応」とも表現していた。ふーん、こういう風に活用させるのかと感心する。神のような人が増えると、世の中がもっと平和になるかもしれない。
 ある番組の中で、道案内をしてくれたおじいさんの「テージロ」発言を聞きとがめて出演者が「テー字路ですか?」とバカにして笑ったことが物議を醸しているとネットで見た。T(ティー)をテーと発音したと思って笑ったのだが、おじいさんは「丁字路」と言ってたのだ。丁字路とは「道路が漢字の丁(てい)のような形で枝分かれしている交差点を指す法律用語」だそうだが、恥ずかしながら私は、今まで聞いた事がなかった。単純にTの形だからT字路だろうと思っていた。これは完全におじいさんの勝ちだ。現在では「T字路ともいう」と注釈にあるのは、多数派とか時代の波によって言葉は変化してくることの一例で、興味深い話だ。
 皇后陛下がお誕生日の会見の中で、新聞一面の「生前退位」の大きな活字に衝撃を受けたと言われた。あッ、と思った。退位の意向を示された天皇のお言葉を、4文字熟語で、さすがに新聞はうまく表現していると思っていたのだが、「それまで私は、歴史の書物の中でもこうした表現に接したことが一度もなかったので…」と付け加えられはしたが、お身内にすれば、なんと生々しい漢字だと思い当たる。
 配偶者を亡くした人の状態を「夫ロス」と表現していた番組に驚いたことがある。当の妻たちも平気でその言葉を口にしていたが、私はいやだなァ。こんな軽い言葉。
 国語辞典は小型のものでも6万語から10万語が収録されているそうだ。年は重ねても、まだまだ知らない言葉はたくさんある。果たして私の脳にはどれほどの言葉がインプットされているのだろうか。その上、新しい言葉も遅ればせながら次々入ってくる。それらの中から自分のセンスに合った言葉を選び、大切に使っていきたいものだ。【中島千絵】

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