ひと昔も前の話だが、職場の女性上司は料理が上手で、時々スタッフのためにランチを作ってきてくれた。ランチだけではなく、たいていの場合それにホームベイクのデザートまでついてきた。
 小さな非営利団体だけに、スタッフも一人何役もこなす中で、彼女もまたスタッフの管理、会議、プログラムの企画、対外交渉、資金繰り、グラントの作成と多忙な毎日で、残業もしばしば。スタッフのランチまで作る時間をどのように捻り出すのかと不思議に思い訊ねたことがある。
 彼女いわく、「夜中に一人で作るのよ。野菜を切って、調味料を計って、煮え具合や焼け具合をチェックして…これが私のストレス解消法。給料日が近付いて銀行の残高が足りないときは、眠れないまま過ごすより料理を始めると気分転換で、かえっていいアイデアが出てくることもある、というわけ」
なるほど、ボスがおいしいランチを持って来てくれたときは、ご馳走さまと喜んでばかりはいられない。次の給料日の心配をするべきなんだ(?)。
 手作りランチの効果かどうかは分からないが、給料の遅配は一度も無かったことを彼女の名誉のために付け加えておこう。
 2年ほど前にご主人を亡くした人に出会った。
 「しばらくはさびしくてね。それを忘れるために買い物ばかりしていたわ。バーゲンをあさったり、結局要らない物もずいぶん買ってしまったけど、おかげさまで今は大丈夫よ」
 彼女の笑顔は明るかった。
 また、ある男性のストレス解消法はジムに通ってランニング。汗びっしょりになり、何も考えずひたすら走るのだという。
 私のイライラ、めそめそ解消法はシャンプー。少し熱い目のシャワーの下で泡をいっぱいたてて泣きたい時は遠慮なく泣きながらシャンプーをして、ドライヤーで髪を乾かすころには、心の痛みや怒りも半分くらいに小さくなっている。
 みんなおのおの、自分なりに悲しみやイライラを解消する方法を見つけている。必ずしもアルコール依存症や麻薬漬けになる必要はないのだ。【川口加代子】

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