富士山の清らかな伏流水が至る所に湧き、近年、特に中国人観光客に人気の忍野八海。友人が忍野村・東圓寺で行われた護摩供法要「不二の祈り」に案内してくれた。
 法要を行ったのは、千日回峰行・大行満大阿闍梨・上原行照師である。千日回峰行とは、比叡山の峰々を1千日間巡拝する荒業。始めれば途中でやめる時は死を覚悟して行うという。最難関は9日間の「堂入り」で、断食・断水・不眠・不臥の行、仕上げに、赤山苦行百日、京都大廻り百日というから大変な行だ。
 この法要の御本尊は、江戸時代には富士山一合目に祀られ、富士講中や修験者たちに深く信奉されてきた鈴原不動尊。明治の廃仏毀釈令の難を逃れ、東圓寺に遷座された。
 寺の跡取りに予定されているのは娘婿の僧侶。仕事熱心で天台宗の他のお寺の行事にも積極的に手伝いにゆく。ある日、大阿闍梨に会い、自寺の不動尊のいわれと富士山および忍野村を含む周辺一帯が世界遺産に登録された話をした。「わかった。それは目出度いこっちゃ。ほな儂がお祝いに一度あんたの寺で護摩供法要をやったるわ」。こうして実現した世界文化遺産登録記念の護摩供法要。参詣者は「こんな法要に身近でお参りできるのは有り難い。ぜひ来年も…」と懇願されもう4年。大阿闍梨は決意した「元気なうちは毎年やろう」と。
 法要は、大阿闍梨が護摩壇に上がってさまざまに印を結びながら真言を唱え、お付きのお坊さんたちの真言の唱和と共に参拝者の心願を書いた護摩札を焚く。火の粉を伴い、盛大な炎を上げる護摩供法要は迫力満点。護摩供えのあと、大阿闍梨は全員に加持を施し、真言を唱えながら参拝者一人一人の頭・両肩に数珠で触れて心願成就を祈ってくれる。そのあとの法話も心に沁みる良いお話だった。
 終わると全員に特別祈祷のお札が授けられ、おにぎりやお茶・お菓子の接待がある。参列者にとっては丁寧に迎えられている気持ちがひしひしと伝わる。こうして忍野村にまた新しい行事が誕生したのである。【若尾龍彦】

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