—高校のアスレチックトレーナーを目指した理由は。
新米のアスレチックトレーナーで、一つの競技に特化するよりもいろいろスポーツにかかわり、さまざまなケガに対応し経験したいと思ったのが高校を就職先に選んだ理由。大学やプロではチームとしてのビジョンやスローガンがあるが、高校チームは編成によって毎年目標が大きく異なるため、どの高校にするかなどの悩みはあまりなかった。だが、わが校は州大会優勝などもする強豪校だったので、ラッキーだった。
—各スポーツにおけるスポーツ外傷の違いは存在するのか。
存在する。陸上競技の短距離やアメフトであれば肉離れが多く、アメフトだけに関してはコンタクトスポーツなので脳震盪などがある。バスケットボールでは関節のねんざや突き指などが外傷として発生する。
けがの種類はスポーツ別だけでなく性別や年齢によっても影響される。女性は、腰骨が広く膝の角度が鋭いことから、男性よりも膝十字靱帯損傷を起こしやすい。
高校生の選手は過去のスポーツ歴もさまざまだが、初心者に比べて経験者はけがに強い傾向がある。生徒はけがを隠すようなことはなく、はっきりと「痛い」と言う。触診などで判断。試合中でも、けが人をベンチから見て、けがのメカニズムを判断する。
現在の高校は海に近い立地条件のため夏も涼しく熱中症はほぼないが、サクラメント時代は夏にセ氏40度になることもあった。熱中症対策は多めの給水、バスタブに氷水を張ってアイシングなど。大量の水と氷水、アイスタオルなどを準備する。選手自身も自覚して、給水のペースや量を調整する。フットボールでは、練習前・練習後で体重測定をして体内の水分を図る。
—リハビリにおける回復期を焦らせないようにするには。
ネガティブな思考は回復自体を遅らせる原因の一つになる。言葉掛けに気をつけ、また、徹底的なロジカル思考と経験・知識で対応することも、関係を保つ上で有益。
—日米のアスレチックトレーナーとの違い、日本人として備えていて良かった考えや行動はあるか。
米国では高校スポーツにアスレチックトレーナーがいてケガの予防ができるシステムがある。国家資格で医療従事者として認められているが、日本は、そこまで地位が無い。
細かいことに気付く、相手を思いやる、仕事を覚える上で聞かずに見て盗む。技術を得る上で役立つと思うこれらの特徴は日本独特の文化ではないか。日本人でよかったと思う点だ。
—トレーナーとしての価値や立場を高めていくには。
チームの与えられた役割に徹することが大切である。
—BLM問題をどう考えるか。
フロイドさんの射殺から、連続で黒人射殺が問題になっている。自分の感覚としては、黒人対白人より銃社会が問題ではないかと感じる。自分自身も、夜のコーヒーショップで2人組の強盗が店内をに押し入った時に居合わせ、自分も含めて銃を向けられ、皆で床に伏せた経験がある。何もできない。撃たれたらおしまいだ。
—アスレチックトレーナーとして将来の展望は。
日本に米国のシステムの良い面を取り入れるような貢献がしたい。例えば日本は、一つに専念させるスペシャリスト型だが米国はいろいろなスポーツを体験する。このことが動きに多様性を生み、全体でスポーツのレベルが日本よりも高い理由になっている。
吉野孝昭 NATA(National Athletic Trainers’ Association)認定アスレチクトレーナー。埼玉県出身。高校卒業後に渡米。加州立大学サクラメント校を卒業。サンクレメンテ高校のヘッドアスレチックトレーナーを務めて12年目。
インタビューを終えて
丸山智也(健康医療学部・健康スポーツ学科) スポーツを学ぶ私は、吉野さん自身の考えや経験は非常に参考になることが多かった。特に印象に残ったのは日本と米国でトレーナーへの信頼度と依存度が異なる点。米国には整体師や接骨院自体が日本ほど身近になく、一方、日本よりトレーナーの信頼度や立場が高い。自分自身がスポーツ健康学を学ぶ上でより多角的な見方を可能にすると感じた。最前線に出て実際に経験することの大切さを何度も感じた。
古谷涼(人文学部・歴史文化学科) 日本では、スポーツ関連の仕事の地位が低い。しかし、アメリカでは歴史的に「スポーツ」は、一攫千金で尊敬されている。この文化の違いが、高校のスポーツにも表れるのではないか。学校での部活・クラブの制度を米国になぞれば、飽きないし、自分に合うスポーツを見つけられて、続けられる。選手自身も自覚して、給水のペースや量を調整するというのは印象的。昔の日本の「水を飲ませない風習」は無い。昔より減ったが、この常識も、日本にも伝えてほしい。