イケモト家伝統の盆祭り。クレテさん(右端)亡き後も継続される
 この夏、オレンジ郡仏教会の「Obon at Home」を発案したケイティー・イケモトさんのアイデアは、昔のお盆を写した家族のビデオテープに端を発した。「子供だった自分たちが手をバタバタさせて動きまわり、小さな妹が走り回っているのを見て、大笑いするしかなかったの」と、ヨーバリンダ高校に通うケイティーさん(17)は言う。それはケイティーさんが小2の年のビデオだった。母のテイコさん、そして2人の妹と、ビデオを見ながら笑い、思い出話に花が咲いた。しかし、その時ケイティーさんの心には、明らかに別の大きなひらめきが宿っていた。【川本ジョン、訳=長井智子】

踊りの振り付けの動画
 ケイティーさんの父クレテさんは、4月2日に新型コロナの感染症で亡くなった。52歳だった。大きな存在だったクレテさんのために「お盆をしなくては」。これがオレンジ郡仏教会でObon at Homeが生まれた主な理由だった。
 2020年はコロナ禍で、どこでもお祭りやイベントが中止になった。「でも、17年続いたお盆が、特に父が亡くなった今年にできないなんて、おかしいと思った。家族のビデオを見た後、これだ、とひらめいた。家でお盆を楽しむ方法を、ビデオを通して人々に教えることができる」
 ケイティーさんは、家で楽しむ Obon at Homeのアイデアを、オレンジ郡仏教会(OCBC)のジュニア青年委員会(ジュニアYBA)に提案した。同意するメンバーがボランティアで計画を組織し支援することになり、約20人のジュニアYBAメンバーが参加した。ケイティーさんは意見を聞き承認を得るために同仏教会のお盆委員会とも話し合った。
 安全性と社会的距離の必要性に留意し、グーグル、ズーム、テキスト、メールを利用して計画を進めたケイティーさん。グーグルを通してメンバーに送った表には、名物揚げ団子をはじめとする、さまざまな祭りの食べ物や催しの名前が列記されていた。「私がお盆体験の重要な部分だと思っていることを書き出した。メンバーは、自分たちのお気に入りだと感じたものにサインアップして動画を制作した」
浴衣の着付けを紹介する動画
 ジュニアYBAのメンバーはビデオの撮影と編集に約1週間かけた。その上にサムネイルを作成したり、いくつかの追加のビデオにナレーションを入れたり編集したりすることを志願した人もいた。
 「お寺の全体がこのお盆に集まるのを間違いなく感じることができた」、とケイティーさん。「非常に多くのメンバーがビデオの撮影や編集に志願してくれた。その圧倒的なサポートと勤勉さは、このお盆が私たち全員にとってどれほど特別であるかを明らかにした」と話す。
 「OCBCのお盆委員会と理事会は私に何が必要かと尋ねてくれた。仏教会メンバーと日系米国人のコミュニティー全体にイベントを広めるのに本当に助かった」と続け、「私たちジュニアYBAのアドバイザーたち、特にキャロル・サカモトさんが、これが私たちと、特に私個人にとって、どれほど重要であるかを知っていて、支援してくれた」

全22本、視聴2万回近くも
食べ物や浴衣の着付けなど
仏教の枠を超え日系多団体へ

 7月17日から25日まで開催されたOCBCのObon at Home向けに作成された動画はお盆で人気の食べものの作り方や工作、浴衣の着付けからバーチャル盆踊りまで全部で22本あり、OCBCのフェイスブックとYouTubeで公開されると、圧倒的な反応を得た。Obon at Homeのチュートリアル動画を見て、お盆を自宅で実践している姿が寄せられた。
 「OCBCのバスケットボールチームがズームで集まってうちわを作っている様子の写真を見た。揚げ団子を作る子供たちや、家を飾り付けて一緒にゲームをしている家族の様子を見た。たくさんの家族が一緒に過ごす時間を大切にしていた。それを見るのは、私にとって、とても励まされることだった」

イケモト家伝統の盆祭り。クレテさん(右端)亡き後も継続される
 すべての動画の視聴回数は2万回近くに上る。ちなみに、食べ物の動画が最も人気があることが証明されたという。
 「いつもお盆に参加している人たち、仏教以外の人たちや多くの日系アメリカ人組織にも届いたことに驚いた」と振り返るケイティーさんは、 「私が所属する4世バスケットボールチームの中でも、ビデオシリーズには多大な支援と激励があった」と話す。
 OCBCのジョン・ターナー開教使は、「Obon at Homeのイベントは喜びにあふれていた。それは単なるYouTubeビデオ以上のものだった。経験の共有を通じて、物理的距離を飛び越えて親密になることができた。むしろそれは、若者主導のアウトリーチプログラムだったと言える。ジュニアYBAはお盆を再考し、単なるお祭りや資金調達活動ではなく、文化、家族、仏教の側面での異議を確認した」と、ケイティーさんとジュニアYBAの努力を称賛した。
 「彼女の視点と献身にとても感銘を受けた。技術的な面だけでなく、心と深みを持って実行された。このイベントの成功から、私たちが仏教の伝統を託す未来に期待が持てることが分かった」
オレンジ郡仏教会ジュニア青年委員会の食べ物の紹介
 YBAのアドバイザーのキャロル・サカモトさんもイベントをたたえた。「最も必要とされたときに私たちに喜びと一体感をもたらした。パンデミックのためにすべてが閉鎖されたが、自宅で過ごす皆さんに、お盆の一部を快適に届けることができてよかった」。サカモトさんは、「もし望むなら寄付をしたり特製Tシャツを購入したりする機会は設けられていたが、ジュニアYBAへの期待は資金調達ではない。お盆の精神を育てることに重点を置いた」と語った。称賛するケイティーさんについては、「非常に特別な方法でObon at Homeに貢献し、亡き父を偲んだ」と話した。

母テイコさん「お盆は家族の伝統」
故人に感情を抱く特別な思い

 ケイティーさんは「私にとってお盆は毎年やってきたこと。家族の伝統のようなもの。私、妹たち、母、『ばーちゃん』が一緒に踊って、父と『じーちゃん』が横で写真を撮る。1日は浴衣でドレスアップして、2日目は法被を着る。年を重ねるにつれて、家族や友達が一緒に踊ってくれることに感謝するようになった」と話している。

盆踊りの練習動画。曲目はみんなが大好きな「1+1」
 ケイティーさんの母、テイコさんの祖父は、1958年から68年までガーデナ仏教会の開教使を務めた川崎是生さんである。母、テイコさんにとって、お盆は彼女が心から愛する毎年恒例のイベントだ。
 かつて一家がガーデナ仏教会から約2マイルのところに住んでいた80年7月12日、放火犯がガーデナ仏教会に火を放つ事件が起きた。理事会はその年の8月にお盆を開催するかどうかを協議したが、結局、お盆は開催された。
 「路上で踊っているときの湿った焦げた木の匂いをはっきりと覚えている」とテイコさんは思い出す。「ガーデナがその年も中止することなくお盆を続けたことを感謝した。毎年ガーデナで最初のダンス『お盆おどり』を聞くと涙が出る。これまでに失った祖父母や友人たちの思い出とともに、それらすべての考えや感情が本当に戻ってくる」
 81年11月20日、ガーデナ仏教会は2回目の放火に見舞われた。教会の再建が約70%完了したときだ。82年2月12日、教会の地下室で3回目の小さな火事が発生したが、被害はほとんどなかった。ガーデナ仏教会の75年の歴史を記した2001年刊行の記念誌によると、これらの放火の犯人はジョン・オールデン・スティーバーという人物で、82年7月にガーデナ警察署に自ら出頭し他の教会を含む複数の放火について自白したという。
自宅でお盆は、ユーチューブで視聴できる
 「私の子供たちは、お盆が私にとっても彼らにとってもどれほど重要であるかを理解している」とテイコさんは話し、「だからこそ、ケイティーはお盆を続けたいと強く感じたのでしょう。特に今年はクレテの初盆で、クレテのために踊るはずだった。ケイティーがこれをまとめることができたことを誇りに思い、感嘆するが、予想外ではなかった」と続ける。「お盆は私たちの困難を癒やし、耐える機会を与える。ケイティーはアイデアを思いつき、それを真のお盆精神でまとめた。パンデミックのために1年を逃すことなく、故人を思いお盆を体験する機会をすべての人に提供した。それには多くの時間、エネルギー、組織、コミットメント、そして情熱が必要だったが、ケイティーさんは、それに応えた。彼女は決してあきらめることはなく、ストレスを跳ね除け、より切迫感をもった。それは本当にOCBCのメンバーと家族を結びつけただけでなく、私たちの親類や友人にも届き、コミュニティー全体を本当に引き寄せたと思う」
 ケイティーさんは、OCBCの Obon at Homeを実現させてくれたすべての人に感謝していると述べた。
 「このイベントを可能な限り最高の品質にするために与えられた多くのサポートは、このお盆を父にささげた私にとって、非常に意味がある」と彼女は言った。お盆を運営するのにどれだけ大変な作業が必要かを学び、毎年、これらの体験を可能にするために払われるすべての努力に感謝する。父が私を誇りに思っていることを心から願っている。お盆を一緒に過ごし、心を合わせている家族がたくさんいるのを見て、うれしい」
 Obon at Home 動画はYouTubeで見ることができる。
 https://www.ocbuddhist.org/obon-at-home
お盆の人気料理・揚げワンタンの作り方動画に自ら出演し、盛り上げるケイティー・イケモトさん

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