【中西奈緒】 来る日も来る日もグラフを見ていておかしくなっているのか、葛飾北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」が重なってくる。大きな波がザブーンと富士山を、いや、日本全体を丸ごとのみ込もうとしている、そんなイメージだ。
実際にはまだ波にはなっていない。新型コロナの感染者数を示すグラフはひたすら上昇を続けている。いつ頂点にたどり着くのか、いつピークアウトして引き波を描くのか、分からない。
きょう28日もいつものように過去最高を更新した。感染力が高いとされているオミクロン株。かつてない速さで広がり全国で8万1810人。去年8月に記録した2万5992人の3倍以上。すでに34都道府県がまん延防止措置に入った。
国は病床使用率と重症者数を注視して医療がひっ迫しないようにしつつ、社会経済活動を止めないようにしている。27日時点で病床使用率は12県で50%を超えた。東京では44 %。緊急事態宣言を出す目安とされる50%は目前だが、社会への影響を考えて慎重な姿勢だ。
振り返れば、昨年10月に宣言が解除されてから3カ月ほどは穏やかな日々だった。世界からも注目されるほど低い感染者数を維持した。11月末に日本で初めてオミクロン株が確認されてからも水際対策の強化は早かった。しかし、国の施策の及ばない米国から戻った米軍関係者たちから一気に感染者が広がった。
厳しい水際対策は今も続いている。外国人は基本的に入国できない。経済界や留学生などは大変な状況だ。しかしこれがこの国の本質なのだろう。島国ゆえの保守的な考え方が分かりやすい。米軍基地からの感染拡大は日本が置かれている立場をよく表している。
感染者が少なかったことしの元日。初詣に「波除神社」に行った。ご利益は災難を除き波を乗り切ること。かつて北斎はこの神社近くで富士山とともに穏やかな海を行き交う船を描いている。そんな穏やかさが戻ることを願いつつ、うまくこの第6波と付き合っていきたい。波乗りはできないけれど、神社で買ったお守りを手に浮き輪にしがみついて大波が過ぎ去るのを待つことはできるかもしれない。