英語落語で会場を沸かす桂三耀さん

 カナダ出身の落語家、桂三輝(かつら・サンシャイン)さんがこのほど、ハリウッドのジャパン・ハウス ロサンゼルで2日間の公演を行った。三輝さんは、1人で何役も演じ分ける巧みな話芸と豊かな表情で観客を物語の世界へ引き込み、会場を笑いで包んだ。

 公演は、日本文化の普及と交流に取り組む非営利団体「KIMONOCON」が主催。三輝さんは世界約80都市を巡るツアーの最中で、ニューヨーク、テキサス、アリゾナなどを経てロサンゼルスを訪れた。当地での公演は昨年に続いて2回目となった。

世界80都市を巡る桂三耀さん

 高座には弟子のサニー、ムーンライト、サンフラワーの3人も出演。弟子は落語を披露した他、太鼓や三味線でにぎやかに舞台を盛り上げた。三輝さんは、弟子が修業の早い段階から高座に上がり、観客に育ててもらう落語界の伝統を紹介。「観客も家族の一員となり、弟子の成長に重要な役割を果たしてくれる」と感謝を表した。

 三輝さんは冒頭、落語が約400年にわたり師匠から弟子へ受け継がれてきた話芸であることや、登場人物によって顔を左右に向け、扇子や手拭いなどの限られた小道具で情景を描くことを説明。落語の導入部「枕」を英語の「ピロートーク」と取り違えないように、と軽妙に語って早くも笑いを誘った。

 「桃太郎」を題材にした一席では、ロサンゼルスで育つ日系の少年に、日本人の父親が昔話を聞かせる場面を演じた。「昔々とはいつなのか」「村はどこにあったのか」「どんぶらことは何を意味するのか」と次々に質問する息子と、答えに窮する父親とのやり取りを通して、世代や言語、文化の違いを浮かび上がらせた。最後には、昔話に込められた意味を少年が説き明かし、一方の父親が眠り込んでしまうという展開で大きな笑いを取った。

 続いて、江戸落語と上方落語の違いも紹介した。屋内の座敷から発展した江戸落語に対し、上方落語は寺社へ続く屋外の道などで通行人を呼び止めて始まったと説明。前に置いた小机「見台」をたたきながら、「立ち去る人を引き止めるため、上方落語はにぎやかで、笑いを取ることを大切にする」と話した。

客席を笑いで包んだ桂三耀さん

 夏の怪談として披露した上方落語「皿屋敷」では、殺されたお菊の幽霊が井戸から現れ、皿を数える場面を臨場感豊かに演じた。恐ろしいはずのお菊が評判を呼び、見物客を集める人気者になっていくという滑稽な展開に、客席は爆笑。1日で18枚を数えたお菊が「今日は2日分数えたから、明日は休む」と言い放つ落ちで締めくくった。

 三輝さんは取材に対し、英語で演じる際も古典落語を大きく作り替えることはないと強調した。「話は直訳しています。日本で日本人を笑わせてきたものと全く同じです」。江戸時代から現代まで笑い継がれた物語には、時代や国境を超える普遍性があるという。「400年かけて磨かれてきた芸だからこそ、言葉の壁も越えられる」と語った。

 演じる上で最も大切にするのは「客席の空気を読むこと」だという。「落語はしゃべる仕事だと思われていますが、本当は見る仕事、聞く仕事。お客さまの反応や雰囲気をすべて吸収しながら話します」。同じ会場で同じ演目を演じても、観客によって高座の空気は毎回変わると話した。

 また、映像配信や人工知能(AI)が発達する時代にも、生の舞台はなくならないとの考えを示した。「ラジオやテレビ、映画、ストリーミングが登場しても、人は劇場へ足を運んできました。人間はやはり、生の人間を見たいのだと思います」

来場者にリクエストに応じサインする桂三耀さん

 ジャパン・ハウス ロサンゼルスの海部優子館長は、「疲れもストレスも吹き飛ぶ笑い。話についていくというより、自然にその世界へ入り込み、目の前に情景が広がっていく」と絶賛。英語も分かりやすく、日本人にも親しみやすいと話し、「この会場は落語の寄席のような大きさで、マイクを使わなくても声が届く。ぜひまた公演してほしい」と期待を寄せた。

 コスタメサから訪れた藤田真理絵さんは、これまで三輝さんの動画をインスタグラムで見ていたが、生の高座は初めて。「日本語と英語の両方を理解し、日本文化を深く知っているからこその面白さがある。両方の言葉が分かれば、さらに倍楽しめる」と笑顔を見せた。アーバインから来たケミ・スコットさんらも、「日本語が十分に分からなくても、英語なので落語を楽しめた。とても身近に感じられた」と喜んだ。

 三輝さんは2008年、桂三枝(現・六代桂文枝)に入門。3年間の修業を経て、英語落語を携えて世界各地の舞台に立っている。現在はニューヨークのブロードウェーで月例公演を続けており、今後は「さらに大きな会場で、より多くの人に落語を届けたい」と意欲を示した。(長井智子、写真=マイケル・カルロス)

弟子を紹介する桂三輝さん。弟子の(左から)サンフラワーさん、ムーンライトさん、サニーさんが加わり、会場を笑いで包んだ

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