オレンジカウンティーに全米西海岸最大のリタイアメントコミュニティー、ラグナウッズ市がある。ラグナヒルズ市の「レジャーワールド」が23年前に独立し、市となった。その規模の大きさ、堅実な組織は、59年の歴史を物語る。まだ、土地が十分あった時にできたから、ゆったりした自然環境を持つ優れた施設だ。

 住民数約1万9千人。日本人、日系人数は約120人。住民の方から、日本の年金受給のため、在留証明の公証を頼まれることがある。もう遠距離を運転できない方も多く、子供にLA下町の領事館に連れて行ってもらうことを気兼ねする人も多い。それで、公証の代行を依頼された時は、快く訪問する。

 1年に1度の再会だから、変化が目につく。誰でも徐々に年を取るが、一気にガラリと変わってしまう時もある。訪問する時は、まず、「こんにちは」と、元気よくあいさつをする。相手は、まだぼんやりされている。気にせず、世間話を快活に続けてゆく。その内、重い歯車がゴトンゴトンと回り出し、笑顔がよみがえり、話が弾んでくる。元に戻ったな、と思う。仕事を片付け、辞した後にいつも思う。もし若い方が定期的に彼らを訪れ、世間話をしてくれれば、おそらく老いの速度を遅らせることができるのに、と。

 多くは、夫婦か女性だけの住まい方だが、興味深い家族と出会った。中国系の2姉妹と兄が3人で一緒に一つのユニットに住んでいた。それぞれ一部屋があり、その他は一緒。日常の用事や運転は互いに助け合う。彼らは全米に散らばって働いていたが、リタイアを間近に、お金を出し合ってこのユニットを買っておいた。引退後は、各自の家を処分し、兄姉妹3人で住み始めた「ケンカもするけど、便利だよ。第一寂しくない。病気になっても互いに面倒見合えるよ」と。なるほど、老いて、再び子供時代に返り、兄弟で暮らすのもいいなと考えさせられた。ケンカもきょうだいなら適度な刺激になる。

 もう50年以上も前になるだろうか。日本のNHKテレビで、生涯独身だった看護婦さん5人が一軒の家で共同生活をしている映像を見た。まだ現役の人もいれば、引退した人もいる。買い出し、食事の支度、その他すべての用事は持ち回り、経費は割り勘。職場で働いているうちに、引退後は一緒に住もうと、話が自然にまとまったという。職業婦人だから、社会人としての常識もあり、共同生活はいたってスムーズ。皆さん快活で、有意義な老後に見えた。他人同士、こんな共同生活もあるのかと、強く印象に残った。

 米国では、子供が大学に入れば、親元を離れる。彼らが卒業して就職すれば、経済的、精神的自立が当然とされる。この慣習が断固として続いてきた。しかし今、変化が現れ始めた。異なった移民文化が入ってきたこと、パンデミックで在宅勤務が一般的になったことなどの理由だ。アジア系、メキシカン系の家庭は、若い夫婦の子育てを祖父母が一緒に住んで助ける。ダブルインカムを目指す若い夫婦の頭痛の種はベビーシッターを確保することだ。親が同居して、面倒見てくれるなら、難問が解決する。子供が落ち着き、祖父母たちも孫のお守りは疲れはするが、楽しく、元気でいられる。

 子供が成人後にまた親と一緒に住むことに違和感がなくなり始めている。親は徐々に体力を失い、病を得る。医師との面談は子供の語学力が助けになる。頼りになる子供をもって親はこれまでの苦労が報われ、子供も親の手助けができ、うれしい。お互いの存在を改めて意識し、感謝する。家族を持つことの醍醐味(だいごみ)だ。

 これを親離れができていない、子離れができていない、という意見の方もいるだろう。しかし、何世代かが一緒に住むことは、新しい命が生まれ、成長し、やがて衰え終りが来る生命の変遷を知る素晴らしい機会でもある。生きるとは何かを、学ぶ。 

 ハイテク、パンデミック、世の中は激変した。老後の暮らし方にも、変化が、あるいは進化があってもいい。気の合う友人と、兄弟と、親子と、一緒に共同生活をする。1人でも、2人でもなく、複数で住む。当然問題も発生する。しかし、解決策への話し合いが老いを遅らせる。一生を働き続け、夢見てきた最後の黄金の時。もっと話し笑って暮らせる生活形態が生まれてこないだろうか。ラグナウッズの先輩たちの姿は、いつも私に課題を投げ掛ける。(樋口ちづ子)

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