武藤顕総領事(左から7番目)とJACCCのパトリシア・ワイアット館長(その右隣)を囲み日本庭園の保存を誓う「日本庭園保存会」の会員

 日系の庭園業従事者が加盟する南加庭園業連盟がこのたび日本庭園保存会を設立し、小東京の日米文化会館(JACCC)で10日、設立式を行った。南カリフォルニアだけで40園以上、全米に90園以上あるとされる日本庭園が、専門知識のある日系後継者の不足から荒れていく現況を憂慮し、同連盟会員が持つ庭園管理の知識、技術、経験を生かして美しい日本庭園の維持を目指す。

説明に聞き入る武藤総領事(左)。中央は岩下会長

 設立式には同会立ち上げのきっかけを作った在ロサンゼルス日本領事館の武藤顕総領事も出席し、当地での日本庭園保存のこれからに期待を寄せた。設立式に続いてJACCCの松の剪定で初仕事を行い、庭園を整えた。
 庭園業は戦前戦後に日本人が米国に根を張って暮らしていく支えになった職業で、1960年代には8千人の日系人が「ガーデナー」として庭園業に従事していたといわれる。創立から67年の南加庭園業連盟は日系最大の職能団体として会員の支援のみならず地域福祉にも取り組んでおり、JACCCの日本庭園「清流園」(James Irvine Japanese Garden)は40年前に同連盟が造園したものだ。
 ところが近年は現職の従事者が高齢化し、新しく庭園業に入ろうとする日系人も少ないことから後継者不足が続いている。
 武藤氏は「私の着任(2019年)から半年のうちに『日本庭園の形が悪化している』という心配の声を聞いた。荒れた庭を見て日本の心が踏みにじられるような気持ちを抱く邦人も少なくないと聞き、その危機感から、私個人からも岩下会長に『日本庭園を保存していく活動ができないものか』と相談させていただいた。それが岩下会長のリーダーシップで現実になったことは喜ばしい」と発足の経緯を明かす。武藤氏は「総領事公邸内に庭園業連盟から寄贈された日本庭園があり美しい形を保っているが、公邸の庭師さんが努力している毎週の作業を見ていると、日々の積み重ねがいかに大事かということを感じる」と日本の庭への思いを語る。「また、若い世代に技術を継承していくことがいかに大切かと日々考えている。保存会が若い人に技術を提供していく枠組みとなっていくことを期待したい」と続けた。

JACCCの日本庭園「清流園」を早朝から手入れする保存会のメンバー

 岩下寿盛会長は「保存会の活動は将来にわたり持続可能なものにしなければならない」と述べ、「日本庭園を保存しながら後継者を育てること、特に松の剪定は誰にでもできるものではないので、日本から剪定技術者を招いて実技講習を行うなどしたい」と目標を掲げた。
 JACCCのパトリシア・ワイアット館長は、「40年前に造園してくださった連盟の方々が今日戻ってきて、若い世代と共に皆さんの専門性と時間を当館のために注いでいただけることに心より感謝する。この美しい庭園は当館のみならずロサンゼルスひいては南カリフォルニアにとっての宝。世界中の人にこの美しい庭を見てもらいたい」と、感謝の言葉を贈った。
 1・5エーカーの園内では設立式をはさんで早朝から数時間をかけて、十数人が作業を行った。松の剪定は手作業で時間がかかる仕事だ。
 ハサミを手に梯子の上で作業をしていた森作正男さんは「手でしなければならないのは大変だが、機械ではできない。機械で行えばきれいになるが、茶色く枯れてしまう」と言う。「黒松は光と風が必要なので上方を少なく下方を密にする。飛び出ているこずえを切った後、新しい芽をきちんと摘まないと、1年後に大きくなってしまう」と、作業の細かさを説明する。伸びようとする木の新芽を取るのはかわいそうな気もするが、庭園は形が決まっているので、何年たっても同じ造形美を保つことが求められているのだ。

ハサミを鳴らしながら黒松の剪定をする森作正男さん

 日系移民のシニアの世代が庭園業界に関与して得た技術や知識が若い世代に引き継がれておらず、日系以外の庭園業者の下で管理されることが多くなっていくと、少しずつ純粋な日本庭園らしさが失われていく。これは公共の庭園ばかりでなく、個人の庭にも言えることだ。
 岩下会長は「庭を見ればかつて日本人が住んでいたことが分かる。そういう庭も荒れてきているので、どうにかしたいという思いがある」と言う。会員ガーデナーの中でも若手と期待される保存会の田倉聡幹事は、保存会を通じて実現したいことの一つとして「地域にある日本庭園、および、日本庭園とまでは言わずとも日本人の家の前にある黒松を残したい、大事にしていきたい」と言う。
 確かに、日本人が住んでいる、あるいは住んでいた家の前には黒松が植えられていることが多い。松は古くは「そのこずえに神々が宿る」と考えられていたほど神聖で、日本人の心とつながる樹木だ。立派な黒松は見る者を誇らしい気持ちにさせてくれる。松以外にも、日本人の家の庭には小さな灯篭が置かれていたり、どこか日本を思わせる庭づくりがある。それは各々の日本人らしさの表現と呼べるものだろう。
 日本人にとっても日本にルーツを持つ日系米国人にとっても、日本庭園の美は自分のアイデンティティーを再確認する大事な場所であるがゆえに、日本庭園が美しい形で保存されることは重要だ。
 作業が続くJACCCの庭園ではパチン、パチンと、剪定バサミの音が響き、松のこずえがパサリ、パサリと地面に落ちる。その音に誘われるように、園内を流れる水流に沿ってトンボが飛ぶ光景は、心を打つ。
 「保存会が庭園の維持管理を通じ日本の心を大切にし、末長く日米関係の深化に貢献することを期待する」。武藤総領事はそのように述べ、保存会にエールを送った。それはまた、日本にルーツを持つ自分自身への、「自分の中にある日本らしさを荒らしてはいないか」という問いかけにも聞こえた。
 日本庭園保存会および南加庭園業連盟への問い合わせは、電話213・628・1595。全米の日本庭園の場所についての情報は北米日本庭園協会のウェブサイト(https://najga.org/garden-finder/)に掲載されている。(長井智子、写真も)

日本庭園管理の知識、技術、経験を発揮して手入れが続く

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