あれは5月の初旬、アイオワ州に住む知り合いのKさんから焦ったような電話があり、「友人のAさんから『この手紙が届くころには全てが終わっていると思います』という内容の便りがあり、ひょっとしたら自殺をしたかもしれない」と言う。
 シカゴから車で小一時間のJ市にリタイアしたAさんは妻のYさんと共に、長年シカゴで和食レストランを経営していたが、1年前に年上だった妻を亡くし、家のことは全て彼女が仕切っていただけにすっかり気落ちして心臓疾患で入院、最近退院したばかりだ。1人住まいで子どもはなく、日本にきょうだいがいるがほとんど交流はなかったという。
 地元の警察に連絡して家を調べてもらったところ、心配したとおりAさんは家の中で死亡していた。遺体は検視の結果、自殺と判定され、家族がいないことから市の遺体保管室に引き取られた。
 KさんがAさんの生前に今後のことなどを話した時、自宅はリバースモーゲージになっているから、自分が死んだら銀行が処理するだろう、心配が一つ減ったと笑っていたそうだ。
 警察が手配した葬儀社が、遺族の許可さえあれば火葬できるというので、日本の遺族探しが始まった。3カ月近くかかって他の友人の記憶から、遺族の連絡先を割り出し、やっときょうだいにたどり着いた。
 「兄はアメリカが好きでした。友人のいるシカゴに埋葬してやって欲しい」というきょうだいの希望を聞き入れて、日系人墓地の納骨堂に安置することになったが、問題はドアを釘付けにされた自宅に置かれたままの妻Yさんの遺骨である。友人たちは、できれば一緒に安置してあげたいと言っているが、遺言状などが無いだけに、誰も家に入ることができず、弁護士を頼んで法廷で検認裁判にかけない限り無理。ドアをこじ開けて忍び込み、こっそり遺骨だけ持ち出そうかなどという物騒なアイデアまで出たが、こんな心配をしてくれる友人がいて、彼は幸せである。
 人間みんないつか逝かねばならないが、残された家族や友人に迷惑をかけずに逝く準備をしなければ…。他人事ではない。Aさんと私は同い年である。(川口加代子)

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