全員による幕開けの三味線合奏「松寿三番叟」。舞踊は坂東秀十美師

 日本民謡の普及・伝承に努める「松豊会」が16日、トーレンスでおさらい会を開催した。会主・佐藤松豊師の弟子や孫弟子が40曲以上を演奏したほか、坂東流日本舞踊の坂東秀十美さんと坂東拡三也さん、友情出演の佐藤さとみさん、日本から三味線・民謡笹本流家元の笹本壽(ひさし)師がゲスト出演し、4時間にわたり熱演した。

母エミリーさん(左)の三味線演奏に合わせて力いっぱい「シャンシャン馬道中唄」を歌うミキ・チェンさん(右)とナオミさん姉

 公演は全員による三味線合奏で始まり、坂東秀十美さんの踊りを交えたご祝儀「松寿三番叟」に続いて「黒石よされ節」(青森県)、「こきりこ節」(富山県)、「広島木やり音頭」(広島県)を演奏。その後、弟子が1人ずつ、民謡を唄や弾唄(ひきうたい)で披露した。唄には松豊師と笹本師が三味線伴奏を付けた。

 個人演奏は子どもからベテランまで、弟子の層がとても厚い。宮崎県の民謡「シャンシャン馬道中唄」を歌ったミキ・チェンさんとナオミさんの姉妹には両親が三味線と太鼓の演奏を付けるほほえましい姿が見られ、フウカ・ヒラハラさん(12)とアキさん(14)の姉妹は愛らしい振り袖姿で、それぞれ「会津磐梯山」(福島県)、「秋田大黒舞」(秋田県)を歌った。姉妹は、他の出演の演目でも舞台の脇に立ち、合いの手をかける役で活躍した。

熱唱する5歳のミイナ・ペトロリアちゃん

 佐藤松豊捺さんの娘ミイナ・ペトロリアちゃん(5)が臆する様子も見せずに「鹿児島小原節」を歌い始めると、観客から「まあ、かわいい」「あんなに小さいのにちゃんとこぶしが回っている」などと感嘆の声が上がり、司会のベカー・グレゴリーさんも「1人で人気をさらってしまいましたね」と目を細めて苦笑した。

松豊師(右)の助けを借りて舞台に上がり端唄「春雨」を弾唄で演奏した橘高比呂美さん

 松豊師の助けを借りて舞台に上がり端唄「春雨」を弾唄で演奏した橘高比呂美さんは、目が不自由で、楽譜を見ることができないので耳だけで三味線と歌を習っているという。「視覚障害がありますが、がんばります」と演奏を披露した橘高さんには、ひときわ大きな拍手が送られた。
 後半に入り、名前を連ねた15人ほどの名取や師範が次々登場して、演奏はますます熱を帯びた。観客は馴染みの民謡曲を一緒に口ずさんだり、目を閉じたりして聞き入り、民謡を楽しんだ。ラスベガスから友情出演で駆け付けた佐藤さとみさんは、予定の「相馬盆唄」(福島県)に加えアンコールの求めに応じて「新相馬節」も披露。松豊師の娘の小杉真リサさんは日英両語の歌詞で「竹田の子守唄」(京都府)を歌い上げた。
 民謡を教えて57年になるという松豊師匠は、お馴染みの、何が出てくるか分からない「民謡玉手箱」の演目で舞台に上がり、自慢の喉を響かせた。公演の幕開けから始まり何人もの歌い手に三味線の伴奏を付けた疲れを感じさせる様子などみじんもなく、82歳になるという年齢も全く感じさせない。松豊師が「秋田長持唄」(秋田県)の一節を歌い始めると、その声量と圧倒的な歌声に会場は釘付けになった。
 最後には弟子一同が舞台に上がり「炭鉱節」と「東京音頭」を演奏。会場が一体になり盆踊りの輪をつくり、4時間の公演を締めくくった。

日本からゲストとして出演した笹本流家元の笹本壽師

 「笹本壽ショー」の時間に北海道の民謡「江差追分」など4曲を力強い演奏で聞かせた笹本師は舞台上で、民謡は「耳を傾けると自分のおじいちゃんやおばあちゃんがそこにいるような気持ちになるような、魂を伝える歌だ」と話し、ビートルズの歌も、シューベルトの子守歌も民謡であると論じた。演奏後には「3回目のロサンゼルス公演だが、こちらに来るたびに(松豊会が)日本から異国に来て民謡を伝えていることに感動する。音楽はすごい力を持っていることを実感する」としみじみと述べた。
 松豊師は「今回の会場に選んだトーレンスのサルベーションアーミーは窓が多く十分に外気が取り込めるので、ここならできると思った」と話し、「コロナ禍で『集会をしてはいけない』『大きな声を出してはいけない』と言われ、『民謡がダメ』ということで遠慮していたが、やっと会ができ、感激している」と胸をなで下ろした。

会主の佐藤松豊師の演奏

 松豊会は年間を通じて各地で数多くの演奏を行っており、日本フェスティバルや祭りなどへの出演も多数。パンデミックの期間もオンライン稽古を続け、さらにはオンライン温習会を開くなど、唄と三味線の学びを絶やすことはなかったが、その努力は弟子らの成長に現れていた。
 演奏会をいろいろなところで地道に数多く行うことについて松豊師は「それを見た人は、その場ではあまりピンと来ないかもしれないが、後々になって、やってみたいという気持ちにつながったりする」と話す。「コロナで足を止められてしまったが、私は負けるのは嫌い。ここまで命を懸けてやってきたこと。命がある限り、困難をかき分けてでも続け、これからもつなげていきたい」と、民謡の普及にますますの熱意を示した。
 現在、ロサンゼルス(ガーデナ)、サンフランシスコ、ラスベガスに稽古場を持ち、日本民謡、三味線、端唄を中心に日本文化の普及・伝承に努めている。
 松豊会の詳細は、ウェブサイト—
 https://matsutoyokai.org
(長井智子、写真も)

にぎやかなフィナーレ「炭坑節」と「東京音頭」の踊りの輪
集合写真に納まり笑顔を見せる松豊会おさらい会の出演者

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