ジャパン・クロスオーバーを推進する日本総領事館の曽根健孝総領事(左から3人目)と、LA次世代日系米国人リーダー・イニシアチブのメンバーの(左から)、ケビン・ニシムラ、ミシェル・ハナブサ、アケミ・ルック、ミシェル・スギハラ、ジョシュ・モリの各氏

 若手日系米国人のリーダーで組織する「LA次世代日系米国人リーダー・イニシアチブ」とロサンゼルス日本総領事館が9日、エンターテインメントにおける日本人のイノベーターをたたえるイベント「JX23」を開催した。ロサンゼルス・ダウンタウンのグラミー博物館に200人ほどを集め、音楽、アニメ、エンターテインメント、次世代インターネットのWeb3などを対象にしたパネルディスカッションと表彰、日本人ミュージシャンMIYAVIのパフォーマンスが行われた。

表彰を受ける「スタジオ地図」の齋藤優一郎氏(右から2人目)

 JXは「ジャパン・クロスオーバー」を意味し、業界で活躍するリーダーや会社をつなげ、協業し、日本の新たなカルチャーをロサンゼルスから全米、さらには世界中へ広げていくことを目指している。
 パネリストには、日本のアニメ制作会社「スタジオ地図」代表取締役プロデューサーの齋藤優一郎氏、音楽事務所「アソビシステム」代表取締役の中川悠介氏、芸能事務所アミューズグループUSA副社長の朽網泰匡氏とブロックチェーン技術やNFT(ノンファンジブル・トークン)への投資を専門とするアニモカ・ブランズ代表取締役社長の谷元樹氏が登壇した。
 「スタジオ地図」はアニメーションの巨匠・細田守監督の作品を手がけるアニメ制作会社で、特に2018年のアニメ映画「未来のミライ」はカンヌ映画祭で喝采を浴び、アカデミー賞とゴールデングローブ賞にもノミネートされた有名作。最新作は「竜とそばかすの姫」だ。現在46歳というプロデューサーの斎藤氏は「今の子どもたちには生まれた時からインターネットがあり、世界の人々とつながっているのが当たり前の世界にいる」と話し、「僕らは『世界の中に日本がある』『世界の一部に日本というアイデンティティーを持った人がいる』という考えで映画を作っている」と制作におけるスタンスを述べた。「そういう視点で映画を作るので、世界共通のテーマや、世界の子どもたちに幸せや希望を与えるにはどうしたらいいかということを考える」と明かし、そこから家族や自分自身のアイデンティティーというテーマが生まれてくることを説明した。

プレゼンテーションを行う音楽事務所「アソビシステム」代表取締役の中川悠介氏(右から2人目)

 歌手のきゃりーぱみゅぱみゅらのアーティストを抱える音楽事務所「アソビシステム」の中川氏は、16年前に作った会社の名前が示す通り「遊び」のシステムを世界に広げたいとし、世界への発信に成功している。同事務所に所属する音楽ユニットの「新しい学校」が2年前に契約した、米国を拠点としてアジアのカルチャーシーンを世界中に発信する音楽レーベル「88ライジング(88↑)」を引き合いに出し、アジア人のアーティストに特化する同レーベルに未来を感じたこと、フェスでロサンゼルス、フィリピン、ジャカルタなどを回った時にアジアの熱狂するパワーを感じたこと、きゃりーぱみゅぱみゅが昨年コーチェラ音楽祭に出演した時のエピソードとして、他にも多くのアジア系アーティストが出演しており、「お客さんの中に大勢のアジア人の顔があった」と、世界的な音楽祭のオーディエンスに受け手としてのAAPIのパワーを確信したことを指摘した。
 現在、音楽ストリーミングのシステムのおかげで日本で作ったものがすぐに世界に出ていくことができるようになっている。いいものはいい、ということが基本にあり、プラットフォームの多様性を使って、広がっていくことができるようになった。メタバースやWeb3などに対して新しいチャレンジをしやすい環境が整ってきており、中川氏は「特に国境のないWeb3には可能性を感じる」と述べた。
 現在、日本が先駆といわれるメタバースとWeb3には大きな焦点が当てられ、朽網氏と谷氏のプレゼンテーションからは、新しいテクノロジーを使用した日本のユニークなコンテンツが日本から世界へとクロスオーバーしていく時代が来ることを確信させたと言える。

得意のスラップ奏法で、ビートの利いた演奏をするMIYAVI

 壇上でJXは、グローバルアチーブメント賞を音楽グループのONE OK ROCKに、カルチャー・インパクト・アワード・イン・フィルムを「スタジオ地図」に贈った。また、グラミー賞を主催するレコーディングアカデミーのディレクター兼ガバナンス担当であるグレース・ジュン・バッカ氏と同LA支部のエグゼクティブディレクターであるキアナ・コンリー氏もあいさつし、会員制のレコーディングアカデミーにAAPIの会員が増えれば、投票制のグラミー賞にもっとAAPIの受賞者が増えるだろうと、AAPI会員増加の意義を訴えた。
 イベントを主催したLA次世代日系米国人リーダー・イニシアチブは将来の日米関係の中枢を担う若手日系人リーダー育成を目的として21年夏に総領事館が立ち上げたプログラムで、「ビジネス」「政治」「ダイバーシティーと女性の活躍」「エンターテインメント」の4分野において、日系4世世代を中心とした若手が活動している。各分野で年1回開催するイベントでは、日系人シニアリーダーによる講演や当地在住の若手日本人との交流などを行い、日米関係への理解を促進するプログラムを展開する。JX23は将来のコラボレーションのために日米のアート、文化、エンターテインメントの架け橋として機能することを目的としたシリーズの第1弾である。
  「JX23」はジョシュ・モリ氏、ミシェル・ハナブサ氏、ミシェル・スギハラ氏、アケミ・ルック氏、ケビン・ニシムラ氏といった若手の日系米国人が中心となって推進している。今年に入って本プログラムの代表団の1人として訪日し日本側の受け入れ担当機関確立に向けた交流を行ったというモリ氏とハナブサ氏は「日本の素晴らしい才能と米国の次世代との仲を取り持つために、この関係を強めて連携を続けていきたい」と語った。 (長井智子、写真も)

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