60周年記念で表彰された各会派の会主(前列)と歴代会長(後列)ら。前列左から松前勝清(松前会)、佐藤松豊(松豊会)、木津嶺式(竹嶺会)、橋本豊春喜(豊春会)、井本豊春寿(寿の会)、後列左からラーセン美奈子(竹嶺会)、佐々木燕齢(会計担当としての表彰、松前会)、松下修、タック西(敬称略)
うちわを手に踊る寿の会の3人
竹嶺会の演奏。歌(中央)はラーセン美奈子さん

 ロサンゼルスとサンディエゴで活動する民謡・民舞の5団体で組織する南加日本民謡協会は3月26日、モンテベロのクワイエットキャノンで設立60周年記念祝賀会と総会・新年親睦会を催した。参加者約100人が見守る中、松前会の松前勝清師が井本豊春寿師の後を継いで新会長に就任した。各社中が演奏と演舞を行い、60周年と新会長の船出を盛大に祝った。
 タック西さんが司会を務め、民謡協会の歴史を紹介した。協会は1963年、南加日系商工会議所(南加日商)の文化部の一つとして作られたという。西さんは当時所属していた音楽バンドの関係で、協会発足時から発表会で司会を務めるなどし、協会に関わってきた。南加日商役員の三田村増男さんらが中心メンバーとなり、矢野和雄初代会長の下、民謡もこなす日舞の坂東勝恵師が松前会を結成し民謡協会は活動を開始した。その後、踊りの菊田会、そして松豊会が加わると他の会が続いた。最も盛況だった頃には12団体が加盟し活発に活動したと振り返り、「会員の皆が民謡を広めようという心があった」と往時をしのんだ。

民謡に合わせて踊る豊春会の会員

 西さんは「優秀な民族ほど、優秀な文化を持つといわれるが、その優秀な文化の一つが日本民謡である」と言い切り、「皆さんの協力を誇りとしながら活動に力を注ぎたい」と抱負を述べた。西さんがかつて佐藤松豊師に師事して歌と三味線に打ち込み、35年ほど前に名取名・佐藤松豊武を与えられたことはあまり知られていない。
 民謡協会は日本に伝わる民謡の当地での継承・普及を目的に活動する。加盟団体は毎年、多方面からの出演依頼に協力し演奏している。南加県人会協議会の親睦演芸会、小東京で開かれる元日の祝賀行事、二世週祭、各所の桜祭りや日本祭り、盆踊り、県人会の行事、その他にも多くの親睦団体のイベントに加盟団体が出演している。毎年3月中旬まで続く南カリフォルニアの新年会シーズンは特に忙しいため、民謡協会の新年会は日系社会で最後となる3月末に行われている。

あいさつに立つ松前勝清新会長

 協会は現在、松前会、松豊会、竹嶺会、豊春会、寿の会の5団体で組織している。新会長の松前師は松前会の会主として既に知られた存在だが、改めて自己紹介をした上で、協会を引っ張っていく意志を示した。「今日、正式に会長になったが、最近の民謡協会のことはあまり分かっていない」と切り出したのは、病気の療養のために3年間、活動を休んでいたためだ。「これから気持ちを新しくして、協会のことを勉強して頑張っていきたい」と、抱負を述べた。

 来賓が祝辞を贈り、60年に及ぶ活動をたたえ、会のさらなる発展を願い、松前新会長の前途を祝した。南加県人会協議会会長の北垣戸和恵さんは「長期にわたり活動を継続する各会派の先生方に心より敬意を表したい」と述べ、県人会協議会主催の親睦演芸会への毎年の協力に謝意を表した。県人会協議会は各県人会をまとめる以外に日本の伝統文化の継承と普及を掲げており、これまでに計300人以上の若者に育英奨学金を授与した実績があるが、その活動資金捻出のための演芸会に民謡協会加盟の会派が出演するという関係にある。「民謡は心のふるさと。この素晴らしい日本古来の芸能を当地でも継続し親しみ、今後もますます広め、末長く発展させることを願いたい」と期待を寄せた。

サンディエゴを拠点に活動する松前会の演奏

 南加日商副会頭のトゥルディー・ノドハラさんは、150年以上も前に50万人の日本人が米国に入植したが、新しい国と土地で言葉の問題など困難に直面したことを強調した。「その生活の支えになったのは、日本の民謡だったに違いない。農民や漁師の唄や三味線を演奏する民謡は、日本の文化と密接に関わっていて、テレビやラジオがない当時は、とても大切だっただろう」と民謡の意義を語った。ノドハラさんが民謡に出会ったのは55年前のことで、サンフランシスコの日本町にあった歌舞伎劇場で聞いた女性の声量に圧倒された。憧れを抱き楽屋を1人で訪れ、歌い手の女性の着物の袖をつかんだ。「その女性が、佐藤松豊先生だった」と明かすと会場は拍手と歓声で沸いた。松豊師に師事し名取となったノドハラさんは「日本人なら誰でも少なからず民謡の心を持っている。皆さんが設立以来、民謡の普及に尽くしてきたことをありがたく思う。これからも、民謡の精神と音頭、そして三味線や太鼓がどのような楽器なのかを米国の人々に教え、カリフォルニア、全米、そして世界へ広めてほしい」と願った。

三味線と太鼓、かね、鳴子、歌の演奏を披露した松豊会

 曽根健孝総領事は民謡について「日本人の日頃の生活や自然の中から生まれた各地域独特の歌謡である」と述べ、「そうした民謡文化が海を越えて、この南カリフォルニアで民謡協会が活動し、昭和、平成、令和の長い歴史の中で多くの人に親しまれていることは、たいへん素晴らしいことだと思う」とたたえた。「各会派の垣根を越えて集い、民謡の普及・伝承に努める取り組みに心より敬意を表したい」と述べ、「先人が残した郷土の豊かな民謡の数々を、本日ここに集まる皆さんでまた次の世代へと伝承してほしい」と願った。

フィナーレで炭坑節を踊る(左から)南加庭園業連盟会長の岩下寿盛さん、県人会協議会会長の北垣戸和恵さんら出席者

 各社中の発表で、着物や法被に身を包んだ出演者が日頃の練習の成果を披露すると大きな拍手が送られた。また曽根総領事は出身地北海道の民謡「ソーラン節」を松豊会の演奏で歌った。最後は全員で「炭坑節」を踊ったが、ここでも総領事が熱唱。参加者が輪になって会場を練り歩き、親睦会を締めくくった。
 民謡協会は所属団体が総出演する「秋の民謡・民舞ショー」を26年間催していたが、新型コロナの影響で2019年を最後に中断している。今秋も開催を見送ることを決めており、来年に5年ぶりの再開が果たされることが待ち望まれる。

松前会の演奏で曽根健孝総領事(ステージ上右)が歌い、輪になって「炭坑節」を踊る参加者

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です