朝6時に起きると窓のシェードを上げて、玄関に回る。ポーチに置いてある黄緑色の小さなボウルは空っぽ。その横に黒猫が1匹、ガラス越しに家の中をうかがっている。
 ドアを開けボウルの中にドライフードを入れてやると、当然のような顔で食べ始める。「いただきます」とあいさつしたことは一度もない。いつの頃からか、これが私の朝の日課になってしまった。
 家でペットを飼わなくなってもう何年になるだろう。猫は30年以上前にダークグレーの24ポンドもあるメインクーンを6年ほど飼っていたが、その猫が死に、犬や小鳥、熱帯魚や金魚なども飼っていたが、動物好きの夫が亡くなって、充分世話をしてやれないのを理由に私の暮らしの中からペットがいなくなった。
 ところがある日、誰かが餌を入れたボウルをわが家のポーチに置いて行ったことから、まずは黒猫が、そして茶毛が混じったのや白黒のブチがポーチに現れ始めた。仕方なく袋入りのドライフードを買い、朝晩与え始めた。
 どの猫も片方の耳の先がクリップされており、友達に聞くと、近隣のネズミ駆除のために、ボランティアが自宅の庭やポーチの下に仮の寝床を作って住まわせているのだという。それがわが家まで遠出してくるらしい。あまり十分に餌を与えると横着になり、ネズミ捕りの使命を忘れてしまうので、給餌もほどほどにということらしい。
 仕事を終えて帰宅するとゲートを開けた途端に素晴らしいタイミングで、どこからともなく音もなく彼らが現れ、「ミヤァ」と声をかけてくる。「お帰り、待ってたよ、あんたじゃなく餌を」ということらしい。
 友人に「名前は?」と尋ねられたが、わが家の飼い猫ではないので名無しである。しかし黒猫を見た途端「やまと」という名が浮かんだ。運送会社にそんなのがあったが、同じでは申し訳ないので平仮名で命名、残りの2匹は武蔵と霧島…あれっ、なんだか戦艦みたいになってしまった。
 やまとはこの頃、餌を与える前に「お座り」というときちんと座れるようになった。いや、私がしつけられて、猫ばあさんになったような気もする。(川口加代子)

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