前回、名古屋のチンドン屋グループ「べんてんや」一行がルート66をシカゴからサンタモニカまで、日本文化を音楽でつなぎながら広める旅、それをカメラで追うロードムービーの話を紹介した。
今回はこの映画の堀江貴監督と、彼のこだわりの「おにぎり」の話である。
堀江監督が東北大震災10周年を記念して製作した映画「最後の乗客」の中に度々登場するおにぎりは、父親が娘のために握ったものだが、この映画の上映会に来る観客に、監督のホームタウン仙台のおいしいお米とノリを使って、ゆく先々で現地の米国人に日本人のソウルフードであるおにぎりを食べてもらうという企画があり、一行は大きな炊飯器を車に積み込んでの旅だった。
「おにぎりの中に入れる具は何ですか」という問いに「しょうゆ味のいり卵です」という答え。第1日目のシカゴでは、堀江監督自らがいり卵を調理した。監督は自分で3ダースの卵をボールに割り入れ、泡立てないように器用に解きほぐし、そこへしょうゆは目量りで、直接にドクドクッとなかなか豪快。
「僕が子どものころ、よく母が作ってくれたんですよ」
そのお母さんは2年前に他界されたとか。
しばらくするとしょうゆの香ばしい香りが立ち、程よい柔らかさのいり卵が出来上がった。
おにぎりを握るのは、4人のべんてんやさんの役目。熱々のご飯の真ん中にいり卵を入れて、ゴム手袋をしても手が赤くなるが、みんなが「上映会に来てくださった方に食べてもらおう」と一生懸命。ノリを巻いてサランラップで一つずつ丁寧に包む。
具が何であろうと、形が三角だろうが俵型だろうがおにぎりは、手に程よく塩を付けて、食べてくれる人を思いながら、心を込めて握るからおいしいのである。きれいに同じサイズで並んでいる型抜きのおにぎりより、多少形がそろわなくても、手塩にかけたおにぎりのおいしさは愛情を丸ごと食べるところにある。
堀江監督のお母さんのおにぎりは、ルート66を旅しながら、きっと多くのアメリカ人の心をホッコリさせたことだろう。(川口加代子)
