【河野 洋】 振り返ってみると、今年の6月から中西部やルート66について「磁針」で書いていることに気が付く。2019年にちんどん屋の米国ツアーでシカゴを初めて訪れて、21年にシカゴで映画祭を立ち上げ、22年にイリノイ、ミズーリ、ミシガン州を車で見て回った。そして今年に入ると不思議なことに仕事が入ってくるようになり、1月にシカゴで旅行博、5月にアルバカーキでアニメコンベンションへ行くことになった。自分が意図しないところで、何かに引っ張られている気がする。
これで今年も終わるのかと思いきや、10月に久々に再会した伊東英朗監督の要請により、なんと11月にシカゴとセントルイスへ一緒に行くことが決まってしまった。伊東監督は、1954年マーシャル諸島で行われた水爆実験で被ばくしたマグロ漁「第五福竜丸」とその乗組員たちを追ってドキュメンタリー映画「放射線を浴びたX年後」(12年)と「X年後2」(15年)を制作した。その彼が最新作として、放射能汚染は原爆を落とされたり福島原発事故が起きたりした日本だけの問題ではなく、米大陸に及ぶ環境問題であることを米国市民に伝える「サイレント・フォールアウト」を完成させた。そして、この作品が上映されるのがセントルイス国際映画だった。
映画祭が始まる前、伊東監督とシカゴで「オッペンハイマー」を鑑賞したが、その舞台はニューメキシコ州ロスアラモス。日本に原子爆弾が投下される1カ月前にトリニティ実験もニューメキシコで行われた。そして、その実験で米先住民やニューメキシコの住民が被ばくした。その補償を米政府に求める運動を続ける女性を追ったドキュメンタリー映画「First We Bombed New Mexico」も同映画祭で上映された。核による放射能問題は、広島、長崎の被爆者だけではなく、われわれを含めた米国の居住者、いや世界中の人たちの健康を脅かすものであることを知らしめる内容で、地球温暖化と同様、われわれはこの問題を考えていかねばならないと感じさせられた。ちんどん屋に始まった中西部の旅が、今、深刻な核問題へとつながる。(河野 洋)
