ロングビーチを拠点とする「フィリピン移民センター」は2022年、ロサンゼルス郡内の約500人のフィリピン系労働者を調査した。調査の結果、4人に1人がその見た目のため、月に数回侮蔑的な扱いを受けたという。特に、医療従事者は差別の標的にされたと感じており、多くが民族性や職業によって「病原体の運び手」として非難されたと報告している。「われわれはスクラブを着ているから…ウイルスを広げているように見られる」と、調査に参加した1人は語った。
 公共交通機関でしばしばいやがらせを受けた経験があると話すのは年配の女性たちだ。ある女性は、公共交通機関を利用している際に乗客たちから「アジア人」と呼ばれ「私を追いかけ物を投げつけた」という。女性は「恐怖で震えていた」と事件を振り返った。
 このような反アジア系米国人へのヘイトに立ち向かうべく、「フィリピン移民センター」は被害者への支援構築のためにコミュニティーの組織化を図っている。22年5月に白人のニコラス・ウェーバー被告がファストフード店のドライブスルーの外でフィリピン系のロキさん一家に身体的暴行を加えた際、同センターは一家の正義のために多様な連帯キャンペーンを開始した。
 事件は22年5月13日に起こった。ネリッサさんとパトリシアさん母娘は夜食のためにノースハリウッドのマクドナルドのドライブスルーを訪れた。列に並んでいる間に車が後ろから追突されたと感じ窓の外を見ると、後ろにジープがおり運転手が叫び始めたという。当時19歳だったパトリシアさんはすぐさま携帯電話で運転手を撮影し始めた。「お前らアジア人だろ!」と、ジープを運転していたウェーバー被告が叫んだ。ビデオ映像ではアジア人のアクセントをまねているようにも見える。その後ウェーバー被告は「お前らを殺したい!」と言い放った。
 「すぐに警察に通報したが対応が遅く父に助けを求めた」とパトリシアさんは振り返る。父親のガブリエルさん(62)が連絡を受け現場に到着すると、暴行はエスカレートしウェーバー被告はガブリエルさんを地面に押し倒しネリッサさんの首を絞めた。通行人がウェーバー被告を取り押さえ、警察が到着するまで家族のそばにいた。ガブリエルさんはその後病院に搬送されたが肋骨を骨折していたという。
 パトリシアさんは「ジャスティス・フォー・ロキ」というキャンペーンで作成されたビデオで述べている。さらに「私たちがこの事件について声を上げることにしたのは正しいことだと感じたから。このような被害を受けた人たちのためにも模範として声を上げ憎しみと暴力に対し立ち上がりたかった」と語った。
 その日、ウェーバー被告はロサンゼルス市警によって裁判に出廷するよう指示され釈放されたが、1カ月後の裁判には姿を見せなかった。
 「フィリピン移民センター」は、その後の一連の裁判でロキ一家のためにコミュニティメンバーを招集した(家族とコミュニティーが聞き取りに入るまで5時間も待たされた裁判がいくつかあった)。同センターは独自に教育的集会を開催し、憎しみを止め被害者を最良の方法で支援する方法について話し合った。キャンペーンマネジャーのカレン・ロクサスさんは「被害者が心の傷を癒やせるように促すことが大切だ」と述べている。
 そして、事件から1年以上がたった23年8月18日、裁判官はウェーバー被告を憎悪犯罪で起訴しないことを決定した。これはロキ家とその支持者にとって非常に失望的な結果だった。ネリッサさんは審理の後、バンナイズの裁判所の外に集まった支持者らに向け「この決定により、この裁判に関わる全ての人が公正な審理を受けるわけではないのだと思った。けれど、いつか私たちが求めている正義を得る日が来るという希望を失ったわけではない」と語った。
 ロキ家の長男であるパトリックさんは「われわれは米国そしてフィリピン政府のどちらからもほとんど支援を受けていない」とインタビューで述べた。一家の補償申請は「ロサンゼルス郡被害者サービス局」で保留中だという。「憤りと不満を感じている」と話すパトリックさんによると1年半近くも裁判に出廷することは、特に労働階級の家族にとって容易なことではない。「両親は今、週に6日間、1日に14時間も働いている。裁判所を訪れるために複数の日を欠勤しなければならない。われわれの生活にとても大きな影響を与えている」。実際、ガブリエルさんとネリッサさんはこのような生活を強いられ約1万2千ドルの賃金を失った。
 幸いなことに「フィリピン移民センター」が設立した緊急基金が裁判所に出廷する長い期間の間に必要な支出をサポートしてくれたという。同センターと協力団体はロキ家のために1万ドルの基金を集めた。
 結果として裁判所が憎悪犯罪の告訴を取り下げたにもかかわらず、コミュニティーは闘い続けることを誓った。パトリックさんは「この事件から正義を感じるのはコミュニティーの努力と連帯のおかげだ。われわれはコミュニティーと共に活動していく」と述べた。パトリックさんは、ロキ一家が行っている活動が事件の情報を広め、さらに憎悪犯罪の被害者を支援するために人々を集めることで、フィリピンのコミュニティーとより広範なAAPI(アジア系米国人および太平洋諸島住民)コミュニティーを強化したと感じている。
 ウェーバー被告には、裁判所によるオンラインでのアルコール乱用と反偏見のトレーニングの義務付けを含む加害者教育が行われた。しかし、ロキ家はこれらは不十分だと感じている。「フィリピン移民センター」のロクサスさんは「本当の責任とは何なのか?これが司法システムの弱点だ。被害者が求めているのは、加害者が刑務所で朽ちていくことではなく彼らが自分たちの行動が被害者にどのように影響するかを学ぶことだ」と述べた。
 また、ロクサスさんは今後「他の非刑罰的なアプローチで他者に害を与えた人々に対する責任を果たす方法」に変わっていくことを期待していると話し、「多くの人が憎悪犯罪を報告することを恐れているのは、それが警察との関わりを必要するからだ。現行の司法制度に変更をもたらすにはどうすればよいかを考えるべきだ」とした。一方、パトリックさんは「組織として活動することが重要だ」と力を込める。「問題についての認識を高めよう。何より自分のコミュニティー内で声をかけることを恐れないで欲しい」。
(アナカイ・ハヤカワ・ゲシュライダー)

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