「黙っていることはない。ヘイトに立ち向かおう」−これは、カリフォルニア州を拠点とする非営利団体「サハス・フォー・コーズ」のコミュニティ・リレーションズ・マネージャー、アンチュ・ビスワスさんの言葉だ。
「サハス・フォー・コーズ」は、南アジアからの移民のため、英語クラス、市民権取得準備のワークショップ、文化祭などを開催している。また、新型コロナウィルスのパンデミック時に、AAPI(アジア系および太平洋諸国系米国人)を標的としたヘイト事件やヘイト犯罪が増加したことを受け、同団体ではこうした被害を食い止めるためのプログラムを考案した。
「サハスSaahas」 はヒンディー語で 「勇気 」を意味する。その名の通り、「サハス・フォー・コーズ」は、ヘイト被害を受けた人にカウンセリングをする複数のセラピストを雇ってサービスを提供している。同団体のケースマネージャーは、その被害度に応じて、被害者にさらなるサービスを提供するため、他の団体を紹介することもできる。また、護身術のワークショップも始めた。
「サハス」はまた、ヘイトの現場に居合わせた場合の「目撃者トレーニング」も実施している。英語で行われるワークショップは、8つの異なる南アジア言語を話すボランティアが通訳を務め、南アジア移民のコミュニティーのメンバーだけでなく、誰でも参加できる。
「サハス・フォー・コーズ」と同様、ロングビーチを拠点とする「カンボジア・タウン」もまた、人種差別的な攻撃を受けた際に身を守る方法を地域住民に指導している。同団体は過去2年間、高齢のカンボジア人を対象に護身術のクラスを開いてきた、と同団体の理事マリコ・カーンさんは話す。クラスの参加者は護身術のほか、攻撃をエスカレートさせない方法を学ぶという。
カーンさんによると「カンボジア・タウン」は今年、特に高齢のカンボジア人女性を対象にしたワークショップを始めた。また、ヘイト犯罪とヘイト事件の違いや、ヘイトを報告するのに便利なスマートフォンの操作方法を教えるワークショップを開いているという。ワークショップはすべてカンボジアの公用語、クメール語で行われている。
「一般的に、米国では反アジアのヘイト行為を認識していない」とカーンさんは指摘する。「アジア系へのヘイトについて白人の友人に話すと、『何を言っているんだ』という顔をされ、近所の人からは『そんなの見たことがない!』という反応をされる。そんなとき、私は『あなたは白人だからわからない』と言ってしまう。米国に根強くある、アジア系に対する『モデル・マイノリティ神話』こそ、ほとんどの人が気がつかない暗い側面への間違ったイメージを与えている」。
「サハス・フォー・コーズ」と「カンボジア・タウン」は、共にカリフォルニア州社会福祉局のアイデンティティーに基づくヘイト事件と犯罪(ヘイト事件は偏見による犯罪にならない行為で、ヘイト犯罪は法律に触れる行為)に対処するための助成金プログラム、「STOP THE HATE」に参加している80団体の一部だ。ロサンゼルス郡では、このうち42の団体がAAPI対象のグループだ。
同助成金は、ヘイトの被害者に直接サービスを提供する団体に支給され、対象となるサービスの内容は幅広く、メンタルウェルネス(心の健康)カウンセリング、他の福祉サービスや法的支援団体への紹介といった直接的なものから、護身術クラス、ヘイト犯罪とヘイト事件の見分け方に関するトレーニング、ヘイト体験を住民それぞれが話す機会を持つコミュニティーでの対話活動、アート制作やヨガなどの癒しのワークショップまでと、実にさまざまだ。
こうした活動の第一歩は、まずヘイト事件やヘイト犯罪が起きたことを住民が認識できるようにすることだ。「そもそもヘイト事件とは何なのか、自分たちを守るために立ち上がることができるよう、地域住民がもっと認識できるようにしたい」と、サンガブリエル・バレーのアジア青少年センターでストップ・ヘイト・プログラム・マネージャーを務めるハイディ・ラウさんは言う。
ロサンゼルス郡で「STOP THE HATE」の助成金を監督するAAPI エクイティー・アライアンスのプロジェクト・ディレクター、キラン・バラさんは「私たちは、地域で事件が起きたときに対応するためのツールや技術、知識を地域のコミュニティーに身につけさせたいと考えている」と語る。
このプログラムの重要な目標のひとつは、ヘイトを乗り越えるのは自分ひとりではないということを知ってもらうことだ、とバラさんは言う。 「ヘイト事件の多くは、外出中に起こり、非常にわずらわしいことで、つい自分だけ、と考えがちだが、一人だけで対応するのは難しく、支援し協力する組織の力強いネットワークがある」。
南アジア・ネットワーク(SAN)のプログラム・ディレクター、ザイナブ・クレシさんは、ヘイト対策の目標は、すべてのコミュニティー・メンバーが「必要なツールを持ち、コミュニティーの後ろ盾があることを知り、声を上げ、発言できるようにすること」と言う。「ヘイト体験を語ることが、この国にとっていかに重要であるかを知るべき」。
ビズワスさんは、自分たちのヘイト体験を発言するよう地域住民に促すことは非常に重要だと言う。参加した「サハス・フォー・コーズ」のワークショップで、ある年配の参加者が新型コロナウィルスを地域社会に持ち込んだと、非難された自身の体験を話した場に居合わせたことがあった。「その瞬間、参加者はほかにも被害があることに気づき」自身の体験をそれぞれ話し始めた、とビズワスさんは振り返る。
「サハス」はまた、ヘイトの体験者に聞き取り調査するコミュニティー研究も行っている。ビズワスさんは、集められた体験談が若い世代への教育に活かしたいと願い、「私たちの目的は、こうした話を地域社会に広めること。そうすることで、多くの人が自身の体験を、オープンに話せるようになる」と話す。
「STOP THE HATE」プログラムのメンバーでもある南アジア・ネットワーク(SAN)のクレシさんは、「ヘイトの被害者であることは、恥ずべきこと、という考え方がある。私たちは、恥という壁を取り払い、ヘイトを乗り越えるのをサポートしようとしている」。教育やメンタルヘルスのワークショップに加え、SANではヘイト犯罪を経験した後、被害者補償や、相手に対し、接近禁止命令などができると言うリソースを提供するなどしている。
SANでは、被害者のメンタルウェルネスのため、ヨガ、呼吸法、瞑想のワークショップのほか、詩のワークショップや高齢者向けの絵画教室も開催しており、その中には南アジアで行われているランゴリ(粉石、顔料、花、米などの材料を使って表面に模様を描く)も含まれている。出身国の文化的・芸術的伝統に触れることは、精神衛生上きわめて重要な役割を果たす、とクレシさんは言う。「私たちは文化による癒しに注目している」。
ロサンゼルスのリトル東京サービスセンター(LTSC)でも、メンタルウェルネスにも配慮している。LTSCの「Jタウン・シニア・コネクション・プログラム」では、週5日、卓球、ヨガ、エクササイズ、パソコン教室、交流会などのシニア向けアクティビティーを開催している。開発担当アシスタント・ディレクター、ジュリー・イタハラさんは「こうしたクラスに参加するシニアたちは、孤立することが少なくなり、社会的孤立による衰弱の影響や、パンデミックやAAPIハラスメントに対する恐怖にさらされることが少なくなったと言っている」と、Eメールでコメントし、さらに「新型コロナウィルスのパンデミックとアジア人へのヘイト犯罪の増加は、アジア系米国人のメンタルヘルスケアが極めて急務であるかを意味する」と付け加えた。
LTSCは、AAPIコミュニティーが直面するメンタルヘルスの問題に対応するため、「チェンジング・タイズ」という、日系人をはじめとするAAPIコミュニティーにおけるメンタルヘルスの議論を促し、助けを求めることに対する偏見をなくすためのプログラムを設立した。「チェンジング・タイズ」は、医療を受ける余裕のない人々に医療費を支給するほか、自殺予防のトレーニングやコミュニティーの集いも行っている。
他のAAPI団体は、人々が所属するコミュニティーを意識させ、他の人々との連帯を築くための方法として、祝い事や祭りを利用している。「アジアン・ユース・センター」は、自分たちのコミュニティーを調査した結果、サン・ガブリエル・バレーを拠点とする住民の3人に1人以上が、パンデミックが始まって以来、アンチAAPIヘイトを経験していることがわかった。対応策のひとつとして、自己防衛訓練やワークショップに加え、さまざまな都市で「異文化ポップアップ」を開催している。
この「異文化ポップアップ」は年長者、若者、大人で構成される委員会が主導し、伝統を共有しあうことで、異なるコミュニティー間の絆を築くことを目的としている。
昨年のモントレーパークの「桜祭り」では、トルコ系米国人の団体がトルコ伝統芸術である「マーブリング・ペインティング」のアクティビティーを披露した。カリフォルニア州立ロサンゼルスの学生は、「デイ・オブ・ザ・デッド(死者の日)」というメキシコ文化のブースを出店した。地元の中国人アーティストたちは、彫刻制作と「シュガー・ペインティング」(明の時代にさかのぼる中国の伝統的な民俗芸術で、熱い液状の砂糖を柄にすくって固める)を子供たちの前で実演した。
アジア青少年センターのストップ・ヘイト運営委員会委員長であるケビン・グエンさんにとって、こうしたイベントは、特に地域社会がパンデミックの痛々しい影響を感じている今、協力の機会となり「今こそ、互いのコミュニティーの価値観に寄り添い、一致団結するのは良いことです」と言う。
「人々がアンチAAPIヘイトをさらに理解したいと思っているのを見聞きするのは嬉しいかぎりだ。しかし、見かけを超えたアクションを起こすためには、最終的には黒人、褐色人種、先住民、クィア、その他の差別されているコミュニティーと連帯し、さらなる絆を築くことが重要。コミュニティーが成長し、拡大するにつれて、より大きなコミュニティーをサポートするために団結し、他の人たちを巻き込むことで、力を得ることができると感じる。結局のところ、それは共有された集合体としてアクションを起こすことになる」としている。

