テレビ画面には、燃え続けるアルタデナの「風景」が映し出されている。オレンジ色の炎と真っ赤に照らされた空の下に黒く焼けただれた瓦礫が広がっている。私にはいくつものも思い出が詰まっている、あのアルタデナが、この世の終わりを象徴するかのように廃墟と化してしまった。
 アルタデナ出身のアフリカ系のSF女流作家、オクタビア・バトラー(享年58歳)が、1993年に上梓した近未来小説「Parable of the Sower」(扇動者の寓話)で32年後をこう予言していた。「2025年2月1日、ロサンゼルスで大火災が発生、全世界が滅びる先駆けになるだろう」
 白人の金持ちばかりが住んでいたアルタデナに黒人やアジア系が移り住み始めたのは50年代後半から。バトラー一家が住み着いたのは、おそらく町はずれのちっぽけな小屋のような家だったにちがいない。私の伯父伯母が息子の名義で家を買った時、両隣の白人にお伺いを立てたと聞く。今回のアルタデナ火災で亡くなった人たちは16人。黒人は2人。そのうちの1人、83歳のロドニー・ニッカーソンさんはエンジニアとして長年働く傍ら、低所得層向けの住宅開発事業を立ち上げた。人種差別を乗り越えて建てた汗と涙の結晶だった「ついのすみか)から最後まで避難しようとしなかったらしい。
 バトラーの墓(そしておそらくニッカーソン家の墓も)があるマウンテン・ビュー・セメタリーには、私の伯父伯母と従兄夫婦も眠っている。どうなったか、気が気ではなかった。が、今は立ち入り禁止区域だった。その墓地にAP通信のカメラマンが入った。その写真を見る限り、樹木は倒れ、一部の墓石は傾いていたが、火の手からは辛うじて免れていた。
 バトラーは小説の中でこう書いている。「歴史とは、人間の強さと弱さ、賢さと愚かさ、そして人間が築き上げた帝国とそれが破壊される廃虚、その繰り返しに過ぎない」。そろそろ人生の幕を畳もうとしている、その矢先に見た「風景」は、まさに「ヨハネの黙示録」そのものだ。アルタデナ・パシフィック・パリセーズの山火事の直接の原因は、サンタアナ風といわれている。多くの科学者たちは、元凶は気候変動だと指摘している。それを否定する大統領と「寡頭集団」が政治を動かし始めた。(高濱 賛)

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