「息子の死を日本にいる母親Mさんに知らせ、書類に、火葬に必要なサインをしてもらうよう、日本語で電話をしてもらいたい」
 突然そんな依頼が届いた。日本語で用が足りることならと引き受け、教えられた電話番号にかけたが、何度かけてもつながらない。
 依頼主に番号を確認して再度挑戦するも連絡が取れず、仕方なく住んでいる地域の警察に住所と名前を告げて、安否確認と、元気でいるなら息子さんの死を知らせてほしいと頼んだところ、「少々お待ちください」と20分以上待たされた挙げ句、返ってきた言葉は「個人情報ですのでお答えできません」。
 米国からかけているのだが、無事でいるかどうかだけでも調べてほしい、と頼むと、「その方がその住所に住んでいるかどうかもお答えできません」とつれない返事。
 その後は何を尋ねても、事情を説明しても、返事は録音されたメッセージのように同じ答えしか返ってこない。番号が間違っていないならと、それからは国際電話バトルである。12回目のコールでやっと「もしもし」というMさんの力のない声が聞こえ、息子のN君の訃報を、つらい思いで伝えたが、「そうですか、離れているから、仕方ないですねえ。書類のサインはそちらで適当に…」と、冷めた返事に内心驚いた。それから少し話をしてみると、今は自宅を出て特養施設にいることが分かったが、施設の名前や電話番号を聞いても知らないと答える。やっとのことでケア・マネジャーと話して、火葬許可証に署名が必要なので協力してもらいたいと頼んだが、「当施設としましては、個人情報に関することはお手伝いできません」の一点張り。さらにMさんがこの特養に入った時には保証人が必要だったはずだが、その保証人の情報も「お知らせできません」と言う。
 本人のMさんは、どうやら認知症が始まっているようで、一人息子の死もどのように受け止めているのか定かではなく、悲しみが深くないのは救いかもしれないが、融通の利かない法律の「個人情報はお知らせできません」のリピートに、私の胃はキリキリと痛み始めていた。(川口加代子)

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