2026年のサッカーW杯と28年の五輪に向け、ロサンゼルス郡の公共交通METROは新駅開設や路線延長に取り組んできた。これまでは利用機会が少なかったが、8月からロングビーチで1人暮らしを始め、新居は駅から半ブロック。ならば「Aラインで行こう!」とタップカード(電子運賃カード)を手に取り、小東京へ向かった。
電車に乗ると、都市の「距離感」が変わる。ロサンゼルスの広大さは、自動車を運転する者にとっては渋滞の苦痛としてのしかかかる。最近はガソリン代も駐車場代も上がるばかりだ。けれど線路の上を進む列車は、時間こそかかるが予測可能なリズムで人々を運び、コストは低い。そして、さまざまな社会問題を抱えるこの街において、ある種の平等性を感じさせる。
音楽ファンの私には、ダウンタウンのLAライブやディズニーホール、ブロードウエーの劇場街へのアクセスはうれしく、プロサッカーチーム「LAギャラクシー」の無料シャトル駅も路線上にあり、乗り換えればLAXやハリウッドへも行ける。行動範囲はぐっと広がり、自由の翼を得たような気持ちだ。所要時間や硬いシートによる腰痛、時に漂う悪臭や治安面の不安といったマイナス要因はあるし、夜のコンサート帰りの利用はまだためらうが、乗ってみると多くの人が利用していることに安心した。
車窓から眺める景色は新鮮であり、車では気付きにくい都市の表情をじっくりと見せてくれる。かつてギャングの街と呼ばれたコンプトン駅前には整然とした建物が並ぶ。車窓には歴史を描いた壁画も見えた。新聞記者の視点で考えるなら、このAラインは1992年のロサンゼルス暴動のサウスLA〜コンプトン、65年ワッツ暴動のワッツ、42年の日系人強制収容の小東京を結び、マイノリティーと人権の歴史を走る路線だと言えようか。経済格差や人種の多様性、環境負荷の軽減といったテーマが1本のレールに凝縮されているかのようだ。景色を眺めながら、自分の時間もまた、その歴史の上に流れていると思った。
今のところMETROの経験はまずまずである。この19日からAラインの終点はアズサからさらにポモナまで延長される。ロサンゼルスが「心地よい電車時間」を育て、より快適な電車社会ができることを望んでいる。(長井智子)
