新曲「ふたりの思い出」を披露する藤本さん(右)とあべ静江

 日米の歌手が歌謡曲を通じて交流を図る「日本歌手協会米国歌謡祭」がこのほど、小東京のアラタニ劇場で催され、会場を埋めた観客を魅了した。日本から歌手6人を招いたショーは、主催した当地在住の実業家、藤本章さんが所有する会社の創業50周年記念を祝うもので、800人を無料で招待した。日本歌手協会(本部・東京、田辺靖雄会長)による米国初の歌唱力プロレベル認定公開審査を実施し、歌謡文化の普及を図った。

デュエットする田辺靖雄(左)と九重佑三子

 歌謡祭は、藤本さんが事業を展開する小東京と日系コミュニティーへの恩返しの気持ちを込め、入場を無料にした。藤本さんは会社経営と並行して自身の音楽活動に力を注ぎ、CDを出すほどの実力を持ち、作詞もこなす。日本歌手協会と親交を深める中で、「日本の歌謡曲の良さを米国に伝えたい」と思い立ち、2021年に「日本歌手協会米国友の会」(本部ロサンゼルス)を設立し、歌を通した日米交流に情熱を傾けている。
 歌謡祭は3部構成で行われた。第1部は20年に日本歌手協会からプロレベル認定を受けた地元の歌手9人が歌った。第2部は米国初のプロレベル認定オーディションを行い、地元の実力者9人が公開審査に挑んだ。この日の歌唱を収録したビデオは日本に送られ、審査結果は10月中旬に発表される。合格者の認定証は藤本さんが、日本で代理で受け取るという。

童謡を歌う合田道人

 第3部は、日本から招かれた日本歌手協会所属歌手、田辺靖雄、あべ静江、合田道人、九重佑三子、工藤夕貴、香嶋優貴の6人が計12曲を熱唱した。あべ静江は、愛称の「しーちゃん」という声援が飛ぶ中でステージに表れ、デビュー曲「コーヒーショップ」と「水色の手紙」の2曲を透き通った美しい声で歌った。
 また、藤本さんは、あべ静江とデュエットの新曲「ふたりの思い出」(作詞・藤本、作曲・合田)を披露し、大きな拍手を浴びた。このCDは近日中に藤本さんの小東京の店で発売開始される予定。藤本さんは10月16日に東京で行われる日本歌手協会主催の歌謡祭で念願の「日本デビュー」を果たすことになっている。
 工藤夕貴とロスインディオスの香嶋優貴は、藤本さんが作詞したLAのご当地ソングで昨年、有線放送で1位となった「コモエスタ・ロサンジェルス」をデュエットした。2人は大ヒット曲「別れても好きな人」、工藤はまた、着物に着替えて、父・井沢八郎の「あゝ上野駅」を歌い、観客の郷愁を誘った。工藤はハリウッドで俳優活動をしていた当時に出演した数々の映画の名を挙げ、「日系米国人の役をやらせてもらい日系の方には大変お世話になった」と頭を下げた。

「コモエスタ・ロサンジェルス」をデュエットする工藤夕貴(右)とロスインディオスの香嶋優貴

 60年の協会の歴史の中で8代目の会長である田辺靖雄は、妻の九重佑三子とデュエットした。九重はかつて人気テレビドラマで主演を務めたことから、「コメットさ〜ん」という声援も送られた。
 協会理事長の合田は、出身地の北海道をはじめとする各地方の民謡と童謡を披露した。司会も務め、得意の話術で会場を笑いに包んだ。合田は当地の出演者について、「上手に歌ってくれた。一生懸命練習したことが目に浮かんだ。皆が歌を楽しみ、日本の歌謡文化を広める気持ちを持っていて、うれしい」と喜んだ。日本では演歌が下火になっているが、「ここではしっかりと歌い継がれている。ロサンゼルスの日系社会に民謡や童謡を歌う若い日本人と日系人がいることにも感心する。LAに住む日本人の方が、演歌に対する愛情を持っている」と絶賛した。

プロレベル認定の公開審査に挑む国長晃司さん

 合田は当地のアマチュア歌手に対し、「日本から来たわれわれの歌から感じ取ったものを励みにして、歌謡曲を歌い継いで、日本のいい文化を広めてほしい」と願った。小東京を歩いていて、非常に多くのアニメ好きの若者を見かけたと言い、「日本の文化が米国に浸透していて、演歌も広がる可能性があることを感じた」と語った。歌を通した交流について、「日本歌手協会は60年の歴史があるが、米国友の会との交流は始まったばかりで、これからが楽しみ。互いに次の世代が交流できるように、日本の歌を通して仲良く付き合いたい。米国友の会の皆さんが日本に来てわれわれの歌謡祭に参加して交流できる日がいつか来れば、うれしい」と期待を寄せた。また、「個人的には米国の歌謡祭で歌手、作詞家、作曲家、司会者、審査員、プロデューサーとして活動でき光栄に思う」と述べた。
 協会会長の田辺は「日本では昭和歌謡が盛り上がっている」と強調し、20、30代の若者が40〜50年前の両親や祖父母の時代に流行した歌を「シティーポップ」として好んで聴いていることも紹介した。田辺は昨今の作曲の方法に疑問を呈し「最近の音楽はデジタルが多く、コンピューター(AIを含む)で曲を作ることができる」と説明。一方で「その反対のアナログの音楽が再び注目されている。昔の曲は人が作った温かさがある」と力説した。

公開審査で歌うジェイ・ソフィアさん

 歌謡曲を愛好する当地のアマチュア歌手については「何年も日本を離れて米国に暮らしているのに、日本の良さを分かっていて、日本の伝統文化や歌を大切にしている。皆さんの歌を聴くと、歌を心のよりどころにしていることを感じ、われわれプロの歌手よりも日本の歌に対する強い思いがあることが伝わってきた」とたたえた。「『歌は世につれ世は歌につれ』という言葉のように、歌はその時代、時代の人々に受け入れられるものなので、昭和の歌が見つめ直される世の中で、皆さんには日本の歌謡曲をいつまでも歌い継いでもらいたい」と希望した。
 歌謡祭は二世週祭の一環イベントとして開かれ、ショーの終了後は出演者が舞台衣装のままグランドパレードに参加した。2階建てバスから手を振り、歌謡曲の魅力を紹介し、普及に努めた。
 藤本さんはイベントを振り返り、「米国友の会の活動を分かってもらい、日本のプロと米国のプロレベルが交流でき、歌謡曲の素晴らしさを伝えることができた。皆さんに『とてもよかった』『成功させてお疲れさま』『招待してもらいありがとう』などと感謝の言葉をもらえたことが何よりもうれしい」と述べた。(永田潤、写真も)

フィナーレで北島三郎の「祭り」を合唱する出演者
プロレベル認定の公開審査に臨んだ出演者

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