羅府コラムニスト小川弘子さんの音楽エッセー

 1月24日、オレンジカウンティーのルネ・アンド・ヘンリー・セーガーストローム・コンサートホールで行われた、シカゴ・シンフォニー・オーケストラ(CSO)のコンサートを聴きに行ってきました。指揮は、2010年から23年までこのオーケストラの音楽監督を務め、現在は終身名誉音楽監督であるリッカルド・ムーティ。84歳というムーティの年齢を考えれば、西海岸に来てくれるのはこれが最後かもしれない、何はともあれ聴いて見ておかなければという思いでした。

 今シーズンで135年目を迎えたCSOは、これまでに音楽監督として、クーベリック、ライナー、ショルティ、バレンボイムなど超一流の指揮者を迎え、鍛えに鍛え上げられ、ニューヨーク・フィルハーモニック、ボストン交響楽団と並んで、常にアメリカ国内の「ビッグ5」オーケストラに名を連ねてきた名門中の名門です。

 20年近く、オペラの殿堂であるミラノ・スカラ座の音楽監督のポストにあり、60年に及ぶそのキャリアをイタリアオペラにささげてきたと言っても過言ではないムーティの生み出す音楽は、いずれの曲にも、その歌心があふれていました。今回はなかなかシブい選曲で、1曲目のヨハン・シュトラウス2世「ジプシー男爵」序曲と4曲目のラヴェル「ボレロ」以外は、非常にポピュラーな曲だというわけではありませんでした。2曲目のヒンデミット「画家マティス」、休憩を挟んで3曲目のストラヴィンスキー「妖精の口づけ」より「ディヴェルティメント」は、私の持っていたムーティのイメージからは意外に感じていたのですが、そんな勝手な思い込みなど吹き飛ばしてしまうかのように、これらの20世紀作品の世界へと会場全体をいざなってくれました。

 アンコールは、ヴェルディのオペラ「ナブッコ」の前奏曲。演奏する前に、マエストロ自ら、「CSOは世界でも珍しい、ヴェルディを演奏するオーケストラです」との説明を行いました。ヴェルディはイタリアオペラを象徴する作曲家で、それ故に、通常はオーケストラのレパートリーには含まれません。ムーティがいたからこそヴェルディを演奏するようになったわけで、「イタリアオペラを世界にもっと知らしめるのが、私の使命」と語るこの指揮者ならではのアンコールでした。

 23年にCSOの音楽監督を退任した際には、これからはイタリアのラヴェンナで家族と過ごす時間を楽しみたい、これまで世界中を駆け回ってきたけれど、ホテルとコンサートホール、歌劇場の往復だけだったので、ゆっくり旅行もしたいと語り、半分リタイア気分なのかと思わせていたムーティ。しかし、その後も、自らが創設した「イタリア・オペラ・アカデミー」での若手指揮者、オーケストラ、歌手への指導、その派生形としての「イタリア・オペラ・アカデミーin東京」、こちらも自ら設立したルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管弦楽団での若手への指導、50年以上に及ぶ蜜月の続くウィーン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとするヨーロッパ各地でのコンサート、そしてCSOでの指揮活動と、まだまだバリバリの現役です。

 この調子なら、またカリフォルニアにも来てくれそうです。次回は「オペラ・ナイト」でヴェルディを堪能したいと密かに願っているところです。

おがわ・ひろこ 

神戸大学教育学部音楽科卒、同大学院修士課程修了。声楽、器楽、合唱、バレエなどのピアノ伴奏者、および合唱指導者。現在、南加日系合唱連盟会長。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。

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