羅府コラムニスト小川弘子さんの音楽エッセー

 4月2日、今シーズンに設立125周年を迎えたダラス交響楽団(DSO)が、オレンジ郡にあるルネ・アンド・ヘンリー・セガーストローム・コンサートホールで、西海岸ツアー最終日となるコンサートを行いました。私が個人的に非常に期待していたピアニスト、エレーヌ・グリモーが病気のため急きょキャンセルとなったのは非常に残念でしたが、コンサートは素晴らしいものでした。

 2020年9月にこのオーケストラの音楽監督に就任したファビオ・ルイージは、デンマーク国立交響楽団の首席指揮者(17年〜)、NHK交響楽団の首席指揮者(22年~)も兼任する世界的な指揮者です。これまでに、チューリヒ歌劇場音楽監督、メトロポリタン・オペラ首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場音楽監督、ウィーン交響楽団首席指揮者、ライプツィヒ放送交響楽団芸術監督などを歴任し、世界中の主要なオーケストラや歌劇場に定期的に客演している、まさしく大物指揮者です。

 1曲目のシューマン作曲ピアノ協奏曲は、前述した通り、予定されていたソリストがキャンセルとなり、ジョージ・リーという新進気鋭のピアニストが代役を務めました。15年、19歳の時にチャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で第2位を獲得したリーは、粗削りであり、かつ繊細でもあるという、これからの活躍が楽しみなピアニストです。

 休憩を挟んで2曲目は、ルイージが自らの指揮者活動の中心に置いている作曲家の1人であると話す、マーラーの交響曲第4番。ルイージの小柄な体格とは対照的に、彼から生み出される音楽はダイナミックで、1時間近く曲の長さを感じさせません。4楽章は「天上の生活」という副題が付いており、ソプラノ独唱者が天上の楽しい様子を歌います。この歌詞は、何度、日本語訳を読んでも良く分からないのですが、独唱のソフィア・フォミナのあたかも天上から聞こえてくるような非常に澄んだ美しい声に、歌詞の分かりにくさなど忘れて、思わず聴き惚れてしまいました。歌手を知り尽くしたルイージがこの曲のソリストとして彼女を選んだことに大いに納得です。私はフォミナを初めて聴いたのですが、この曲をはじめとしてマーラーの作品を世界中で歌っており、パリ、ロンドン、ミュンヘンなどヨーロッパ各地の歌劇場への出演も多く、今後、アメリカでももっと活躍していくのではないかと思います。

 終演後に駐車場まで歩いている時に、オーケストラのメンバーが楽器を持って出てきているのを見かけたので、少し話してみました。若い女性のヴァイオリン奏者でしたが、音楽監督であるルイージとの活動の全てを非常に楽しんでいる、ということでした。ルイージほどの指揮者の下で演奏できる時間が、彼女のような若い音楽家を、もう一つも二つも上のレベルへと導いてくれ、オーケストラ全体としても、さらにレベルアップしていくのでしょう。

 今回のコンサートを主催したフィルハーモニック・ソサエティー・オブ・オレンジカウンティーは、毎シーズン、世界的なソリストやオーケストラを招いています。既に発表されている来シーズンの目玉は、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団。ソリストにピアニストのユジャ・ワン、メゾソプラノのエリーナ・ガランチャを迎えるという豪華さで、まだ1年以上先なのに、もう今から待ちきれません。

おがわ・ひろこ


神戸大学教育学部音楽科卒、同大学院修士課程修了。声楽、器楽、合唱、バレエなどのピアノ伴奏者、および合唱指導者。現在、南加日系合唱連盟会長。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。

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