言葉が時代を通過して生き抜いても、意味が変わってゆく例は多い。
 以前、トシマという姓の熟年のご婦人に、トシマの姉さんと呼んだら「まあ、年増だなんて」と怒ったふりをして笑った。年増という言葉は、今は大体30代半ばくらいから40代半ば、さらには50歳前後までの婦人も指して使われているようだ。まあ熟女という語感だろうか。しかし女性はこの言葉に、大分年配という感じを受けるようだ。
 年増は元々は江戸時代以来、20歳前後の娘さんをいう言葉だった。当時は女性は15、16歳くらいで嫁に行くのが普通だったから19、20、21歳くらいになると嫁に行く娘盛りを過ぎた、の語感で年増と言い、20代が中年増、30歳くらいからは大年増と称した。言葉自体は生きているが、時代の変遷と共に社会での意味あいが変わり、使われ方が変化したのだ。
 年増に対し初老もそうだ。いま初老と言えばまあ中年過ぎ、老人の初期という感じで使われ50代、60前後くらいを対象にしているようだ。この初老も元々は40歳のことだった。それ以外の何歳でもなくちょうど40歳を指し、初老いとも言った。平安時代には既に長寿の祝いの第一弾が40歳で、初老と称して祝っていたらしい。
 40ではまださほど老けてはいないが、人によりびんの辺りにちらりと白いものが出始めたりして、かすかな老いの兆しが出始める頃で、これを初老と称した。
 今の40歳は非常に若いから初老と言ったら似つかわしくなさそうだ。今は作家も初老の表現で50代から60前後の人物を描いている。
 ある講演会で司会を務め、質疑の時に髪もグレーになった知り合いの五十代の男性をわざと「そこの初老の方」と指したら「初老?」と不服そうな顔をしたから、初老には相当に老いた印象や概念を持ち不満だったようだ。それで、初老とは40歳を言った言葉だと加えたら喜んでいたが。
 日本人の平均寿命は終戦当時で約50歳だったと言われる。それが今は大きく伸びて男性はほぼ80、女性に至っては90に近づきつつある。これからさらに寿命が伸びた場合、年増や初老の言葉の意味もまた変ってゆくのかもしれない。【半田俊夫】

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