薬害エイズの被害者の少年、光洋(中央、安藤美保)を見舞い、話を聴く弁護士の黒田陽司(左端)と記者のジュール(右隣)。右端は光洋の母レイ(みあた咲)Photos/Ed Krieger
薬害エイズの被害者の少年、光洋(中央、安藤美保)を見舞い、話を聴く弁護士の黒田陽司(左端)と記者のジュール(右隣)。右端は光洋の母レイ(みあた咲)Photos/Ed Krieger
 日本で実際に起きた「薬害エイズ事件」を基にした英語の舞台劇「BLOOD」が5日から始まり4月3日まで、ハリウッドの劇場「コンプレックス」(6476 Santa Monica Blvd.)で公演される。ロックとミュージカルナンバー満載のポリティカル・スリラーは、日本を訪れたユダヤ系米国人の記者が、HIV汚染血液製剤販売に関する政府の陰謀を暴く物語として、世界初公演され注目を集めている。

 1980年代初期、血友病患者を多数含む、約2000人がエイズで死亡。当時、すでに安全性の高い熱処理された血液製剤が存在していたにもかかわらず、米国企業が日本に非加熱の汚染血液を販売し、安価な非加熱製剤を日本製薬会社が入手、配布し続けたことが原因であった。スキャンダルは、薬品会社、そしてその規制責任を怠った日本政府に対する市民の怒りを引き起こし、厚生省の高官、関連した薬品製造会社幹部や血友病分野の主要医師が告発され、裁判は10年以上にもおよんだ。

迫真の演技で、薬害エイズを訴えるロックシンガー役の平川貴彬
迫真の演技で、薬害エイズを訴えるロックシンガー役の平川貴彬
 ロサンゼルス・タイムズは2000年2月25日付の紙面に、次のような記事を掲載した。「日本企業の責任負担の標準を上げる画期的な判決が下された先日木曜日、大阪の裁判所は、より安全な代替品が入手可能であったにもかかわらず、HIVウイルスに汚染された血液製剤を意図的に販売し続けたとして、元製薬会社幹部3人の収監を宣告した」
 脚本・演出は、全米監督協会賞を獲得し、ゴールデングローブ賞2度、エミー賞に5度ノミネートされるなどの輝かしい実績を持つ舞台・映画界の巨匠、ロバート・アラン・アッカーマン氏が手掛ける。
 東京に約20年在住したアッカーマン氏は「この裁判が長引いた理由の1つは、被害者やその家族が身元を公表したがらなかったからだろう」と語る。当時の日本では、エイズという病気を持つのは、たいへんな恥と思われていたとし、訴訟が裁判に取り上げられた時も、原告はみな、黒いカーテンの後ろに姿を隠して証言したという。
 若い青年だった原告がついに10年の沈黙を破り、初めて実名を公表した。その川田龍平氏は奇跡的に生存し続け現在、参議院議員として活躍している。川田議員は、この舞台についてメッセージを寄せ「95年の当時まだ19歳だった私は、2度と同じ苦しみを人々に味合わせたくないという思いから、薬害エイズ被害者として実名公表し、国と製薬企業を相手に闘った」と振り返る。「20年以上たった今、海の向こうの米国で、この事件から生まれた舞台が公演されることを、本当にうれしく思う」
 アッカーマン氏は、実際の出来事にフィクションを融合させ、さらに音楽を織り込んで、この舞台を劇的でユニークな作品へと昇華させた。当初、福島の原発事故に触発された同氏だが、昨年12月、血液製剤や各種ワクチンの日本のトップメーカーである化血研が、薬害エイズ事件後も約40年間にわたり、違法薬品製造、資料の改ざん、会社ぐるみで隠蔽工作を続けていたことが発覚したことから、この舞台の公演の必要性を感じたという。南カリフォルニアのポーター・ランチでのメタンガス漏れや、ミシガン州フリントの飲料水に鉛が検出されたことなど、数々の身近な出来事に潜む大きな緊急性に、この舞台を通して光が当たることを願い、渾身の力を込め作品を仕上げた。
剣術を駆使した迫力のあるシーンは見物。メイクは、歌舞伎をイメージした
剣術を駆使した迫力のあるシーンは見物。メイクは、歌舞伎をイメージした
 キャストは、米国人記者のジュール・デービスをアレクサ・ハミルトン、原告側を率いる在日韓国人の弁護士役で劇団「ザ・ガレージ」創設者、パク・ソヒに加え、ジュールの東京大学留学時代の旧友役を安斉拓真、不本意に事件の証人となる病院の看護師役を相原和美が演じる。さらに日本のエイズ研究委員会、血友病協会の会長を務めた故阿部英医師がモデルの風間医師にはトシ・トダ、そして川田議員の少年期を基に描かれた若い告発者、二宮光洋役を安藤美保、その母親役をみあた咲がそれぞれ務める。そのほか、芦名佑介、アンソニー・グロー、平川貴彬、マイケル・ジョセフ、アンドリュー中島、ダリル・L・パディリヤ、山藤実花、滝林大真が出演。振り付け、セット・衣装デザイン、プロジェクション映像、照明デザイン、音響デザインなどは、一流スタッフが担当し、プロダクションコーディネーターは相原和美が務める。
 BLOOD は、4月3日までの週末に公演される。開演時間は金、土曜が午後8時、日曜は午後3時。チケットは、金、土曜が30ドル、日曜は25ドル。
 チケット購入は、電話323・960・7745。メール—
 www.plays411.com/blood
「チャイルド・ウォーリヤー(少年戦士)」を歌うキャストたち(平川貴彬、マイケル・ジョセフ、安藤美保、芦名佑介、安斎拓真ほか)
「チャイルド・ウォーリヤー(少年戦士)」を歌うキャストたち(平川貴彬、マイケル・ジョセフ、安藤美保、芦名佑介、安斎拓真ほか)

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